スタンド・バイ・ミー
黒い氷河に白い雪山が印象的、
デナリ・ムルドロウ氷河より。 |
アラスカ鉄道のチケットを買ったのだが、僕はどうしてもそのまま帰る気にはなれなかった。
このタイミングで鉄道に乗らないなら、歩いて来た山道を53kmもどるか、チルクートを越えてさらに進むかだ。
アラスカ鉄道はレトロな外観で、まだ出発前だというのにコーヒーサービスが始まっている。
山行で疲れた人達は足を投げ出して座ったまま、コーヒーを飲みながらまったりと景色をながめている。
その眺めている方向とは逆方向に、僕はどうしても「スタンド・バイ・ミー」がしてみたかった。
線路を歩いて途方にくれている自分の姿を想像しただけで、そこに充分なロマンがあった。
列車の汽笛が鳴ると、乗り込んだトレッカー達は、みな僕に手をふってくれた。
「Have a nice trip !」
右左右と指で確認した鉄道員が、ぼくを見てわずかにウインクをして言った。
「Welcome to Alaska!」
列車がゆっくりと蒸気を吐きながら動き出し、あっというまにカーブして見えなくなると、最後の汽笛が聞こえて行ってしまった。その音を最後にまた静寂がもどり、反対方向のレールにそって歩き出した。
そこには、僕のために開かれた道が待っている。 なんとも刺激的な風が吹き、湖が波を立て、はるか先まで道があった。
100年前のガリンペイロはベネットから先は筏に乗って北を目指した。 僕は、かわりに鉄道のレールを歩いて金に代わる「何か」を求めて北を目指した。幸運なことに、宿でもらった地図にはベネットから鉄道の終点カークロスまでが記載されてあり、そこまでの距離が22マイルであることがわかった。
それに白夜の中を歩けば2日あれば着く自信もあったし、食料も切りつめればなんとかなりそうだった。(続く)
杉田えいすけ さん
福岡出身。九州産業大学で写真を専攻。自転車、登山、ロック・クライミング、カヤックが大好き。現在、税理士の資格取得に力を注ぐ福岡の自転車メッセンジャー。“九州のへそ”人吉で税理士事務所の設立とマイ・ログハウスづくりを夢見る。
www.e-adventurous.com
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