魚を「狩る」
川べりにカヌーを止めてキャンプ地を探す。 |
ユーコン川の支流、テスリン川をひとりで下っていると、時間がまるで異次元の世界かのようにゆったりと流れているようだ。そのゆったりとした時の中で突然、魚の跳躍する音が僕をびっくりさせた。ファイブフィンガー・ラピットという瀬を越えたあたりでのことだった。いつもより遅い時間まで舟を漕いでいると、夕日が川面に映っていた。あたりから魚の跳躍する音がバシャッ、バシャッと聞こえ出してしばらくそれが続く。
あちらこちらで魚が跳ね、虫でも捕食しているのかと思うが、一向に魚たちの食事が終わる気配もなく、特定の魚が自分の後をついてきている感じがした。手頃な中洲を見つけたのでカヌーを着岸してタ―プを張り、今日のキャンピング地点にする。火を起こしかけたころ夕日が沈みかけ一気に、気温が下がってきたが、魚の跳躍は一向にやまない。ザブンと飛沫をあげる音からもその魚が大物であることは間違いなさそう。あんまりうるさいので僕は大物が飛沫を上げ、その挑発的な態度をとる魚のところにルアーをブン投げた。何度も何度もブン投げた。慣れてくると魚が跳ね上がると同時にそこへ的確に投げられるようになってきた。すると突然ズシンと重い当たりがきて、根がかりなのか大物のヒットなのか分からない。
カヌーを川べりに引き上げ適当に幕栄。 |
僕の持っている9ドルの釣竿セットは、リールがぶっ壊れてしまい、まわそうとすると逆にラインが流れていきライン直線上の水面から巨大な魚がジャンプした。それまでは、うるさい魚を静かにさせようとなんとなしにルアーを投げていたが、夕日が照らすその魚体を見た瞬間から僕の頭の中が急に冴えてきた。空回りするリールのラインを指で抑え、魚とは逆方向に竿を持ってひっぱっ引きずり上げようとした。
僕自身が中州のはしっこまで移動すると魚は中州手前の浅瀬まで近づいて来ていた。大物は最後まで跳ねたり引いたりと抵抗をみせる。僕は川のなかに入って魚を陸に揚げようとする。竿を立てて、距離を稼ぎたかったがラインが切れそうだったので横向きを保ちながらラインが切れないことを祈りつつ引き続け、腰まで川に浸かった頃その大きな魚が中州の際で跳ねている。
急いで中州に上がって走り寄り、のたうちまわるその大きな生命をしっかりとこの手で捕まえた。それは「釣る」というよりは「狩る」という表現の方がより現実味を帯びている気がした。
今夜の食事はこの大きな生命が僕の明日の活動源となる。食べきれないくらい大きなホワイトフィッシュだ。
杉田えいすけ さん
福岡出身。九州産業大学で写真を専攻。自転車、登山、ロック・クライミング、カヤックが大好き。現在、税理士の資格取得に力を注ぐ福岡の自転車メッセンジャー。“九州のへそ”人吉で税理士事務所の設立とマイ・ログハウスづくりを夢見る。
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