「材料を買うお金とレシピさえあれば、だれでも料理を作れる。でも、料理の真髄は、お金をふんだんに使って必要な食材をすべてそろえて作るのではなく、あり合わせの材料で、想像力を使って作ることにある。それには、レシピに頼りきらず発明家になったつもりで料理することだ。私は、最高の料理法とは即席性であると思っている」と、人懐っこい笑顔で語るジェームス・バーバー。
アメリカを含め130カ国で放映されていた料理番組のホストで、バンクーバーでは知らない人はいない人気キャラクターだ。
朝9時に行ったインタビューで「昨日は徹夜でまだ目が覚めないよ!」と言いつつ、そのクッキング哲学を語ってくれた。
「北米人の大半は料理することに恐怖感をもっていて、レシピなしには料理ができない人が多いんだ。まるで宇宙飛行士が打ち上げ前に計器盤を点検するように、使う食材の分量、フライパンやオーブンの温度、料理する時間などを何度も確かめながら恐る恐る料理している。特にゲストをもてなすために料理を作るとなると大変だね。『ニンニクを入れ過ぎないように』『安物のワインを出してもだいじょうぶだろうか』『パンやトマトの形が良くない』『料理の色とマッチしないお皿を使ったらおいしく見えない』などと神経を使い、挙げ句の果てにダイニング・ルームのインテリアや自分が着ている服までが気になってくる。そして招待したゲストが帰るまであれこれ心配してるけど、呼ばれた方にしてみればもてなしてもらったことに感謝し、料理が多少自分の好みに合わなかったにしても満足して帰っていくものだ」
「料理はだれでもが楽しめ、難しいものではない。私の料理教室で人気があるのは時間をかけずに簡単に作れる料理だ。料理法があまりに複雑で、材料を覚えるのも大変なレシピは、私の料理教室だけでなく全国的に人気がなくなってきている」
「料理の味は、繰り返して作るうちにおいしくなっていく。自転車に乗ることを覚えるように、最初からプロのような味が出せなくても、経験を重ねれば自分なりの味ができあがってくる」
「日本人が西洋料理を作る場合も同じように考えて、怖がらずに実験してみてほしい。私はマーサ・スチュワートの料理方法にはまったく賛成できない。マーサ・スチュワートのやり方は全てが計算尽くしで完璧だ。イメージにとらわれすぎて、本来は感性で仕上げていくべき料理の本質が失われている。料理は作るときも食べる時も自由であるべきだ。人間は完璧ではないし、すべてコントロールされたライフ・スタイルを快適に感じる人がどれだけいるだろうか。 『良い料理とはどんな料理か』という問いに対して、『味が良いものが良い料理だ』と私は答えている。フランス料理であろうと、ロシア料理であろうと、自分なりに作り上げておいしくできればそれで良いんだ」
「世界の食生活は私たちの時代に大きく変化してきた。私はスコット・ランドからカナダに移住してきたが、その頃の北米の食生活は肉とジャガイモが主体だった。今はスーパー・マーケットに世界の食材が並び、食事に関しては国境がなくなってきている。またカナダは、異文化を受け入れることに慣れているので、食べたことのない料理に対する興味も旺盛で、外国の食材を使って冒険する人も多い。例えば豆腐だが、日本人は固定観念があるため冒険的な食べ方はしないが、カナダ人は自分なりの料理法を見つけて楽しんでいる。私は、冷ややっこの上にカツオを乗せて食べたり、凍らしてテクスチャーを変えてからスライスして野菜やチキンと炒めたりする。昔からあった食材だろうと外国の食材だろうと、ルールやレシピに縛られず自由に楽しむのが料理の真髄だ」