この町にたった一つの日本国旗

3年間住んでいたバンクーバーの家が火事になったのをきっかけに、私達はBC州を離れ、オンタリオ州に引っ越してきた。しかも車で。
都合よく（？）火事で焼けてしまったので持ち物もあまりなく、家財道具一式をトラックに積めてバンクーバーからオンタリオ州までの旅・・・。
慣れない右側通行だが、運転席に座った私がまるで米粒のように見えるほどの大きなトラックで、爽快な旅。
車窓を流れる風景が、“これからの楽しい生活を象徴しているのだ”と心に思いながら、一路、東へ、東へ。

オンタリオに着いてから1年間かけて、キングストンの北西にあるクロイン( Cloyne)という小さな町に念願の家を見つけたが、それまでありとあらゆる湖と土地を下見に行き、地元のカナディアンでも知らない湖の名前まで覚えてしまった。

家の前からカヌーで15分、数百年前に原住民によって巨大岩に描かれた壁画 （ボンエコー公園の中にある）。

日本人ゼロ、信号機なし

さて、この町にはあまり人が見あたらない。それもそのはず、ここはいわゆるコテージカントリーで、夏場には人がたくさん来てキャンプやアウトドアライフを楽しむが、一年を通して住んでいる人はあまりいないらしく、誰に聞いても詳しくは分からないのだけれど人口は200人程度らしい。 信号機も無い。食料品店も無い。
あるのは毎日お昼休みを2時間取る郵便局とガスステーション。小さい学校と夏場にしか開かない地元歴史資料館。ボンエコーレイク（Bon Echo Lake）という名の州立公園。人々はとてもフレンドリーだが、何だか興味深々というような目で見られているような気がしたのは気のせいだと始めは思っていた。

家のベランダに遊びに来たアライグマ

郵便物転送願いを出すために行った郵便局でその謎が解けた。
この街には日本人は一人もいないという。日本人だけでなくアジア人が一人もいないらしい。このため、“日本人を見るのは初めて”という人たちがこの町にはたくさんいる。夏場に家の屋根の葺き替えをしに来た人に「お寿司が食べたい」と言ったら、「寿司って何だ？」と言われて、「冗談ですよね」っと言ってしまった。

“ごめんなさい！これからどうなるんだろう？”という一抹の不安を感じながらも本来の楽天思考で、バンクーバーでは味わえなかった自然と共存する暮らしをスタートした。考えてみるとカナダに来る前に描いていたカナダのイメージは、お洒落なカフェや足早に歩く人々、ブランド店のウィンドーショッピングではなく、今ここで生活しているような、人よりも大自然と向き合う生活だったと思う。もちろん刺激的なバンクーバーも大好きだし、素敵な街だと思う。でも私はここで生きていく。
（つづく）

記事提供：ウェスト トレック ツアーズ
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