国境を越えると様子が変わった
翌日、最高の天気と景色にめぐまれ、終着地ベネットへ向かった。
途中、アラスカから国境を越えてから道の様子が変ったことに気がついた。
カナダに入ってから、ひっそりとしたキャビンの建て方、細い道跡、必要最小限のケルンへと変わっていた。そこには、自然と共に生きることへの美徳があった。徹底したロー・インパクト(自然への干渉を最小限にする)への姿勢が道行く先々で伝わってくる。どこか日本の質素の美徳のようなものと通じるものがあると思えた。
僕は、そのときハッっとした・・・。
ここまで歩いてきて一度もゴミが落ちているのを見ていない!
熊対策で厳重な食物管理をする事は、とても面倒なことだけど、めったに山に来ない連中が余暇をとってたくさん入ってきている。
しかも途中で食料などは手に入らないから、すべて持参しているはずだ。そんな中で、ゴミがまったくないという事実はスゴイ。それほど良識がみんなにあるのだろうけど、山で一度もゴミを見かけなかったのには感心した。
ベネットレイク(最終ポイント)に着くとそこには、「世界の車窓から」でみるような素敵な駅が待っていた。
一日一便、昼の一時にスキャグウェイ行きの列車が来る。
日曜はこない。
その日は、土曜日でその列車に乗るための予約はあるから問題ない。
だから問題はない…が、それが問題であった。
この湖のようなエメラルドのひろがる川の脇に線路がまっすぐ先へと続いている…。僕は、それを眺めているうちに、列車での帰り道とは逆の方に延びていくその直線に向かって吹いている強い風に誘われて心が移ろいでしまった。
伸びたヒゲを触りながらながら「スタンド・バイ・ミー」のようにレールの上をたどりながら歩く旅なんてのは、最高だろうと連想してはニヤニヤとその直線を見つめてしまった。
杉田えいすけ さん
福岡出身。九州産業大学で写真を専攻。自転車、登山、ロック・クライミング、カヤックが大好き。現在、税理士の資格取得に力を注ぐ福岡の自転車メッセンジャー。“九州のへそ”人吉で税理士事務所の設立とマイ・ログハウスづくりを夢見る。
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