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私のオーロラ体験

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yellow knife

深々とした漆黒の空を光が踊る時、洪水のように言葉が押し寄せ、思いが渦巻き、そしてそれは跡形も無く霧散する。畏怖と畏敬の念を抱かせる天の下ではどんな言葉も意味を持たない――。

白い世界で出逢った人々・・・。
12月も半ばを過ぎた頃、私は零下の世界に佇(たたず)んでいた。オーロラを見てみたいと思い始めたのはいつの頃だったろうか。写真や映像を見ては思いは募り、今、このイエローナイフの地を踏んで、私の胸は期待で大きく高鳴っている。
今回、参加したのは旅行会社主催のツアーで、4日間滞在するのはダウンタウンにあるFraser Tower Hotel
昼間、イエローナイフの街を歩いてみた。面白い事にノースウエスト準州の車のナンバープレートは北極熊の形をしている。どことなく哀愁漂う小さな街は、わずかに行き交う車のエンジンさえも澄んだ音色を静かに響かせ、降り積もる雪はさらさらと音を立てる。そこは果てしなく白い世界だった。先住民系の人々の視線は鋭く、笑顔は優しい。目が合うと子供のような笑顔を向けてくれる彼等の顔には、この厳しい環境を生きるための強さと優しさが刻み込まれていて、私は少し憧れた。

yellow knife

静かなる躍動
夜8時を過ぎた頃ツアーは始まる。バスはダウンタウンを離れ、地上の光が届かない遠くへと私達を乗せて行く。オーロラを待って2日目。まるで外界から切り離されたようにしんと静まり返った夜。雲は無く、星の囁(ささや)きが感じられる。外気はとうとうマイナス43℃に達し、「今日は絶対凄いヤツを見られるよ」とツアーガイドのダイシーがうれしそうに云う。
夜も更けて、極北の星が次々に瞬き、流れては消える。真直ぐに聳(そび)え立つ針葉樹が切り絵のようにくっきりと浮かび上がる景色の中で、私は唯唯空を見上げ、息を潜め、そして光の出現を待つ。やがて一本の薄く長い帯が頭上に現れ、その一ヵ所が濃く光り始めたかと思ったら間もなく光が弾けた。
静かなる躍動・・・とでも云えようか。紺藍色の空に広がる緑色の光。裾が薄くピンク色に輝き、いくつもの色が踊る。カーテンのような・・・蛇のような・・・とオーロラを例える言葉は沢山あるけれど、私の目にはオーロラはオーロラとしてしか映らない。圧倒的な言葉の奔流(ほんりゅう)、思いの渦、押しつぶされそうになる心。そしてその後に訪れる静寂。寒さからでは無く躯(からだ)が震え、涙がこぼれた。
移ろう自然の中で変わらないものなど何一つ無い。オーロラも刻一刻とその姿を変え、いつしか消えて行く。今ここで見ているオーロラは、この瞬間だけのとても儚(はかな)いものだ。二度と巡り合えないこのオーロラを、心の宝石箱へと大事に仕舞うことにしよう。

今夜あなたの上にもそっと・・・
太陽風と地球の大気とが衝突し現れるオーロラ。オーロラは宇宙と地球との境に現れる。しかしオーロラの現れる原理は未だ謎も多く、神秘のベールに包まれている。
そして今、ちっぽけな私と大いなる宇宙とが一つになっていくその時、私は思う。命とはどこからやって来て、どこへ行くと云うのだろう。私達人類はどこへ行こうと云うのだろう。今、宗教や民族間の問題、自然と人間との不調和、そんな殺伐とした世界の中で、私達は確かに息づき、懸命に生きようとしている。天からの光は人間の驕(おご)りや弱さ、あるいは今ここに生きている素晴しさをも教えてくれた。オーロラは畏怖を与えると同時に希望をもたらす光。オーロラの美しさも恐ろしさも言葉では言い表せない。それは躯で感じ心に刻まれるものだから。
カナダでのツアーももうすぐ終わりである。しかしこれから歩む道の途中では、さらに沢山の新しいことに出逢い、様々な人々と触れ合い、多くの問題に直面するだろう。傷付いたり、迷ったり・・・。そんな時、きっとここでの体験をそっと思い出してみる。全ての経験は私の心の糧となる。
辺りがしんと静まり、星が落ちてきそうなそんな夜、あなたも空を見上げてみて欲しい。そこでは天が何かを語りかけているかもしれない。そう、もしかしたらあなたの街でも今夜・・・。

宮嵜加奈子 ワーキングホリデービザで来加。


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