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日本を飛び出した日本文化

京都精華大学人文学部では、3年次後期に生徒が各々のテーマで調査研究活動を行い、報告書を作成する「調査演習(選択科目)」を行なっている。私は、2006年8月12日〜12月28日までカナダのバンクーバーに滞在し、グローバルウィンズのアシストを得て調査演習を行なった。 私が選んだテーマは、「カナダ・バンクーバーでの日本文化の広がり方〜能を切り口に〜」。2006年、バンクーバーに隣接するリッチモンドで、日系人の歴史を題材にした能「かもめ」が上演された。私の調査演習はこの能の制作グループを取材することから始まった。

竹原 希光子さん
竹原 希光子
(たけはらきみこ)

京都精華大学
人文学部文化表現学科3回生


音のない音楽

 能「かもめ」は、カナダの劇団と日本の能関係者がジョイントで制作した作品で、日系人の苦悩を描いた作品。カナダで現地の役者も加わって能を行ったのは今回が初めてだ。初めて観る能に興味を抱く観客は多かった。観客の多くは小鼓の音色に特に興味をもったようだ。現代音楽は音が絶え間なく続くが、日本の伝統音楽には間があり、音の前後にある静けさを感じるものだったからだ。カナダの人達にとって和楽は、未知の世界の音楽なのだろう。
 日本から能楽師を招待するのには資金がかかるため、カナダで頻繁に能を行なうことは難しいが、回数は増えてきているという。また、観客の年齢層は若い人から年配の人まで幅広い。


コーヒーより抹茶

 能の調査を行なっている途中で茶道関係者に巡り会ったことをきっかけに、茶道の普及調査を行なった。その調査の延長で抹茶の普及度が驚くほど高いことを発見した。 スターバックスやブレンズ(カナダで生まれたコーヒーショップでスターバックスに次いで人気が抹茶ドリンクある)などで抹茶が売られていることに、最初は違和感がなかった。でも、よく考えてみるとバンクーバーにある大手カフェチェーン店が、日本の抹茶を販売しているのは想像もしなかったことだ。調査の結果、今や、カナダの600件以上のカフェが抹茶を販売し、バンクーバーに限れば、1人あたりの抹茶の消費量は日本以上の可能性があるという事実も掴んだ。この抹茶ブームの背景には、メディアで抹茶の栄養価が高いと取り上げられたことが大きいと考えられる。そのため、一般に人たちの認識度が高くなったのだろう。またカナダ人には(作法や礼儀が伴う)抹茶への先入観が無いため、コーヒーを飲む感覚で抹茶を取り入れているようだ。もしコーヒーを飲んでいた人達が毎日抹茶を飲むように変わったら、その消費量は益々凄いことになるだろう。これは予想ではなく、近い将来実現すると思われている。

お寿司は北米食?

 日本文化の普及度調査のもう一つの切り口として、日本食についても調べた。 日本食はヘルシーだという情報、映画「将軍」のヒット、今までの食事に飽き始めたことが重なり1990年前後から日本食レストランが増え始めた。北米の人達が生魚に抵抗があったことと、海苔の香りや色が受け入れられなかったために考案されたカリフォルニアロール(海苔が内側にくるようにし、北米人が好むアボガドなどの食材が入った巻き寿司)がヒットしたことで、お寿司は北米で広がった。 現在バンクーバーには日本食レストランは多いが、経営者が日本人の店は全体の約3分の1だ。日本人以外が経営するレストランで出される日本食は、ほとんどが安さに重点がおかれているので品質がいまひとつだ。それらを初めて口にした人が、「日本食はこの程度のものなのか」と落胆してしまうのなら残念なことだ。しかし日本と比べて低価格で気軽にお寿司が食べられることで、日本食が一般的になったのであればプラスと考えて良いだろう。日本人が日本でお寿司を頻繁に食べることはないが、週1回お寿司を食べる人も珍しくないほど、バンクーバーでのお寿司は日常化している。


調査演習を通しての発見

 能や茶道など、精神文化が普及するのは難しい。心で感じて初めてそれに興味をもつからだ。しかし、ゆっくりではあるものの理解され始めているようだ。一方直接生活に関わっている食に対しては普及度が高い。日本文化の広まり方に、こういった違いを発見した。


まとめ

 今回の調査で、日本文化に関わっている多くの方々に取材をさせて頂いた。限られた時間ではあったが、そこで得た情報の価値は大きかった。取材した人々の信念にも刺激された。広い視野と問題意識をもった方々だった。そして、向上心。今、日本文化が受け入れられている背景には、日系人の歴史があることも忘れてはならない。これまでの歴史があるからこそ、先に繋がっていく。自分の国である日本を見直さなくてはならないと強く感じた。素敵な方々に出会えたことが私にとっての1番大切な糧となった。



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