![]() スキー三昧の日々に憧れ、勤めていたコンピューター・システム会社を退職。ワーキング・ホリデー・ビザでウィスラーに滞在中、飲食店勤務の正樹さんと出会って96年に結婚し、カナダ暮らしが実現した。 高い木々に守られた3分の1エーカー(400坪)の敷地の裏庭でブランコが風に揺れている。長女の絵梨香(えりか)ちゃん(6才)はタンポポのレース作りに熱中、長男の力(りき)君(4歳)は拾った小枝を片手に洋子さんのところへ来て得意そうな笑みを浮かべる。洋子さんの家庭には、遊び道具や電動のおもちゃはほとんどない。遊び道具は枝や葉っぱ、花に石ころ、と至るところにあふれている。子どもたちの限りない想像力は、石ころをお姫様に、小枝を魔法の杖にも変えてしまう。
ウォルドーフ教育(日本ではシュタイナー教育)とは、ルドルフ・シュタイナー(オーストリア人。1861-1925年)の思想である「人智学」を基に子どもの意志の力を育み、畏敬の念と感謝をもつ、何物にもとらわれない自由な人間を育てることを理想に掲げた教育法である。子どもの心身や精神・魂の発達段階を踏まえて、あらゆるものが子どもの生活・外界・生命と結びつけられて、具体的なイメージを伴って芸術的に伝えられる。 いつしか洋子さんのなかにはシュタイナーの教育法に沿った理想の母親像ができあがっていた。だが、小さな子どもとの生活は、楽しい一方で自由にならない閉塞感もある。我が子に向ける自分の態度が理想通りにならないことが、自分の負の面と向き合うきっかけともなり、洋子さんは精神的な落ち込みを経験した。
このエッセンスの助けを借りて、自分にとっての豊かさとは何かを見詰め直してみた洋子さんに、1つの願望が残った。それは「子どもたちをウォルドーフ・スクール(シュタイナー教育を実践する学校)に通わせたい」ということだった。
先生はきめ細かに子どもを見つめ、親との間では生活態度だけでなく、精神面の成長についても情報交換が行われる。「喜びをもって自由に力強くしなやかに人生を歩める人間に」という洋子さんの思いと先生の思いが一致していること、そして先生と共に声を掛け合いながら子育てができることを、洋子さんはとても心強く感じている。 学校はシュタイナー教育を切望する親が創設したもので、運営に関しても、教室の確保から教師の採用、資金運用に至るすべての仕事を親が進んで請け負っている。運営資金は授業料だけでは不足なため、親たちが年数回、募金のためのイベントを催すなど精力的に支援している。親が皆自分の得意な分野を生かして立ち回るなかで、洋子さんは日本語のクラスを担当。イラストを活用し、漢字の成り立ちを周囲の世界と結びつけて教えている。 スコーミッシュはアウトドア・スポーツが盛んな地域で、洋子さんの家庭では、子どもたちも小さな頃から、スキーやハイキングと活動的に過ごしてきた。「もう少し大きくなったらシー・カヤックにも連れ出したい」と正樹さんと洋子さん。2人の子どもたちは、純粋な瞳に青空を映して自由な翼でどこまでも羽ばたいていきそうだ。 <募金協力のお願い> |
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