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ダンスクラブの活動が
かけがえのない経験になった <後編>

志村直樹(しむらなおき)君
東京都出身 18歳
Hugh Boyd Secondary School 12年生在学中


前号まで
小学生の時にカナダで2週間ホームステイを体験し、中学でもイギリスで体験留学した志村直樹君は、バンクーバー近郊のインターナショナル・スクールに2年間入学。その後、公立高校のHugh Boyd Secondary Schoolへ入学した。

直樹君は、映画を観て英語に耳を慣らしたり、ホスト・ファミリーや友人と積極的に話をして英語力を向上させてきた。だが、転校した公立校は、留学生が多いインターナショナル・スクールとは違い、一般のカナダ人学生が大多数であるため、周りの生徒や先生の話す英語が早く、今まで以上に英語力を向上させる必要があった。また、学習のレベルも格段に上がり、良い成績を上げるのが一層大変になった。学校の規模も大きく、生徒数も以前の学校より10倍近くも多いため、それまでとは異質な環境だった。
だが、直樹君は、「やったことは自分にすべて返ってくる。苦労があるから人生は面白い」と、自分を奮い立たせて、新しい環境に挑戦した。

最終学年を迎えた今年度、日本語クラスの「ピア・チューター」に参加した。クラスで先生のアシスタントを務めるもので、カナダ人の日本語の先生に代わって、直樹君が日本語の文章を読み上げたり、生徒の理解を助けるためにクラスを回って、質問に答えたりする。宿題の採点や出欠取りなども行い、この役回りを通じて、直樹君は先生という仕事の大変さを経験した。

また、選択科目の一つとして取ったマーケティングのクラスは興味深いものだった。授業のなかで、生徒が制作する学校新聞の印刷費を捻出するために、広告を取るという課題が出された。新聞の発行部数は1万2千。学校の生徒のほかに、地域の住民や商店に無料で配布する予定だ。
直樹君は早速、コーヒー・ショップやスーパーなどを回って店のマネージャーと話をしてみたが、どこも「予算がない」、「会社の本部に掛け合わなければ決められない」などと"No"の一点張りだった。
この広告営業の成果が科目の成績にも響いてくるので直樹君は真剣だった。何人もの人に断られるなかで、仕事の大変さを肌で感じた直樹君は、営業の仕事をしている父親が、営業先に何度も足を運んでやっと仕事が取れたと苦労話をしていたことを思い出していた。

そんな折、ホスト・ファミリーから、知人で不動産業を営んでいる人がいるからその人に話をしてみては、とアドバイスを受けた。早速その人の仕事場に行って話してみると、通常の新聞広告よりも安いからと、広告を買ってくれることになった。方々に出向いて話をして断られた末に得られた最初の契約。この時は、なんともいえずうれしかった。公立校は、インターナショナル・スクールよりもすべての点で難しかったが、このように社会に踏み込んでいく機会を与えられたことが、大きな収穫だった。

転校当初、友達がなかなかできずにいた直樹君だったが、中国系の生徒が話しかけてくれ、そのクラスメートとは悩みも相談できる関係になった。正直なろところ、それまでの直樹君は、白人の友達を作ることだけを考えていた。そのことに気がついた時、直樹君はその考えがとても恥ずかしいものに感じられた。国際社会を学ぶうえで人種は関係がない、そう明確な考えをもつようになってからは、周りの留学生を見る目も変わってきた。

国際社会に慣れていない留学生にとって、視野を広げるにはいろいろと経験するしかないのだろう。留学生のなかには、同じ出身国同士だけで固まってしまう人たちも見られる。だがそれは自分だけでなく、周囲の人にも、様々な人種や民族を越えて交流する貴重な機会を与えられないことになる。また、日本の音楽の流行ばかりを気にしたり、カナダの生活に対して消極的な態度が見られる日本人留学生もいる。こうした生徒を見ると、直樹君はかつての自分の姿を見るような気がするが、今は彼らがなぜそうした態度なのかを疑問に思うほどになった。

そして今、直樹君には何事にも全力で取り組む意欲があふれている。その直樹君の姿勢の背景には、苦しい家計のなかから留学費用を捻出してくれる親に対して恩返しをしたい、という思いがあるからだ。

卒業後の進路も考えなければならなくなったこの頃、将来何をやりたいのかと自問するなかで、マスコミとかかわりのある仕事に就きたいという思いと、アメリカへ飛び込んでみたい気持ちが募ってきた。
また、大学に進学した時は寮生活を送って、友達と過ごす時間をもっと増やしたいという希望もある。今は「一日一日出会いを大切にして残り少ない高校生活を大事にしていきたい」という思いを携えつつ、大きなフィールドに夢を描いて、直樹君はひたむきな姿で歩み続けている。