板橋 明美(いたばし・あけみ)さん 自分のアイデンティティー発見 今月号の「海を渡った高校生」に登場する辻賢志郎君が通うウエスト・バンクーバーの公立高校が板橋さんの勤務先である。仕事内容は、日本語クラスのアシスタント。アシスタントといっても、自分で授業を企画して組み立て、教壇に立つ日が週に2〜3回ある。3つにレベル分けされた生徒のうち、板橋さんは主に初級の生徒を対象に日本文化を教えている。 ぬるまのOL生活に疑問を抱いて 日本では、半導体関係の貿易商社に一般職として勤務していた。大学では英語学部。配置部署は輸入担当で、取引先はアメリカ、自社工場はフィリピンと、それなりに英語を使う仕事だった。入社して3年、それほど不満はなかったものの、ぬるま湯に浸(つ)かっているような生活に疑問を抱くようになった。そして、専門分野である英語を「もっと勉強してみよう」と思い立った。 就労先も保障のユニークなプログラム 板橋さんが参加している「日本語教師アシスタント」プログラムは、留学エージェントが、勤務先もホームステイ先も手配してくれる1年間のユニークな滞在プログラムである。特に経験や資格は問われないが、それでも現場では立派な一教師だ。責任感とやりがいのある仕事内容で、毎月センターにレポートを提出することも義務付けられている。 大学以来、2度目の海外生活 実は板橋さんは今回が初めての海外滞在ではない。大学時代に、春休みを利用してオーストラリアに2ヵ月留学したことがある。その時にも大学での基礎勉強が役立って、コミュニケーションに困ることはなかった。きついオーストラリア訛りも、日本で教わっていた先生がオーストラリア人だったこともあり、難なくクリア。
ホストファミリーはフランス系 ホームステイ先は緑豊かなノース・バンクーバーで、板橋さんの勤務する高校のフレンチ・ イマージョン(*1)担当教師の家庭だ。ホストファミリーとは円満だが、ホストマザーはフランス人、ホストファーザーはフランス語圏のケベック出身のカナダ人というフレンチ一家。板橋さんがいる時は気遣って英語で話してくれるが、小学生と高校生の娘たちにはなるべくフランス語で接したいのが親心だ。「いっそ、フランス語の勉強をしようかと思った(笑)」ほど、家庭内はフランス語が飛び交っていた。これもマルチカルチャーのカナダならではだ。 自分で企画する授業の楽しさ 週に2〜3回受け持つ授業内容は、日本の文化紹介。テーマを考え、授業を企画して手作りの教材を用意する。「神社」をテーマにした時には、実際に神社を再現して生徒に"お参り"や"おみくじ"を体験させた。珍しさも手伝い、生徒たちは大喜びだった。日本式のバレンタインや座禅などの文化紹介も好評で、板橋さんが授業を行う初級クラスは人気となり、この教科を選択する生徒が1.5倍に増えた。「企画は好きなので、どれも楽しかった」と、これまでを振り返る。そして日本文化を紹介しているうちに、自分自身が日本を大好きなことにも気付かされた。 生徒に人気のジャパニメーション 日本語クラスを選択する生徒は、少なからず日本文化に興味をもっている。特に"ジャパニメーション"とも呼ばれるアニメが人気だ。「NARUTO」や「鋼の錬金術師」などが特に人気で、板橋さんよりも生徒のほうが詳しく知っていることもある。生徒たちは日本の音楽もよく聴いているようで、生徒から"あにめーしょん"と手書きされたCDをプレゼントされたこともあった。浜崎あゆみやスマップなどの、アニメ主題歌が中心のオムニバスだった。「生徒たちはすごくかわいい」という板橋さん。しかし、間もなく任期が修了するため、その40数名の生徒たちともお別れである。 板橋さんは、この滞在を通して日本の良さを見つめ直し、自分自身のアイデンティティも明確になったと言う。出版関係や国際交流団体など、何らかの形で「日本文化の紹介をする仕事に就きたい」と目標が定まった。
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