ライフ - 連載コラム記事

若狭真二の海外生活ア・ラ・カルト「これで良いのか、日本の大学生の教育水準」

 

急増する不登校生の海外進学


進学や進路選択に対する考え方に変化の兆し

 

△やり直しを許さない日本社会

中学、高校になじめず、不登校生になった少年少女が後を絶たない。文科省の学校基本調査によれば、2004年度の不登校生数は中学、高校で12万人を超えるという。
この原因はさまざまで、偏差値教育や受験戦争の重圧に押しつぶされる子もいれば、逆に知識偏重の教育体制に愛想をつかす子もいる。また親の思いとのしがらみや、クラスメートによるいじめ・差別行為が登校拒否や「引きこもり」を生み不登校になるなど、要因は多岐にわたる。しかし悲惨なのは、理由の如何を問わず、一度つまずくとなかなか再起できない厳しい社会環境、やり直しを許さない風潮があることである。

△海外で活路が開ける?

そうした中で、活路を海外へ求める傾向が年々増加しているが、これが予想を超えて功を奏しているようである。劇的な環境の変化が動機付けになったのか、親元を離れたことが自律心を芽生えさせたのか、いずれにしろ留学したことが良い結果につながっていることは喜ばしい。日本で居場所をなくした若者が、葛藤しながらも海外でトンネルから抜け出せればこれに越したことはないし、国内で深刻な社会現象となっている不登校生対策に一石を投ずることにもなろう。

△しかしアパシーでは駄目

そうはいっても、何事にも関心を示さず、飽きっぽくやる気がない、部活にも興味なく、友だちもあまりいない、昼ごろまで寝て勉強の習慣もほとんどないという、いわゆるアパセティックな子はいくら環境が変わったとしても、うまくいくことは稀であろう。
不登校生を留学させる場合、家族やエージェントは、一般の生徒の何倍も注意を払い、当人と家族との話し合いや留学についての理解を深めない限り、危険である。とくに引きこもりがちの子が留学する場合、時間をかけて専門のケアを行うことから始めるべきで、いきなり海外の未知の世界へ移すことは無謀である。

不登校の解決策は?

不登校対策として民間、行政ともに試行錯誤を繰り返しているがこれといった特効薬はまだない。単位制高校や通信制、フリースクール、また転入学や学区の自由制度を導入するなど、以前とは異なる対応を試みてはいるが思うようにいかない。
社会全体が飽食で、家庭教育や学校教育にいわゆる「甘え」があるかぎり、この現象は続き、ますます捩(ねじ)れていくとの危惧もある。やはり子どもの成育には「アメとムチ」の要領が必要で、基本的には家庭での親と子のあり方にあるのではないかとも思う。
このところ、すっかり家庭でも学校でも、また社会全体が「アメ」ばかりで、「ムチ」の部分が欠落しているところに不登校の主な原因が潜んではいるのではないかと思えてならない。 

△留学では自立性が必要になる

不登校生であっても、自分の意思で学校教育のあり方に疑問をいだき通学を拒否する場合は、逆に大いに見込みがある。しかし心身が怠惰で、あるいは脆弱(ぜいじゃく)で不登校になった生徒の場合(これが全体の6割ともいわれる)、留学では座り心地の良い自由奔放に振舞えた場所が消え失せる。そのためにおきるストレスは、留学生にとっては大変なものであるが、実はそのショックや刺激が内在していた自立本能を目覚めさせることになるのだ。これが不登校生を立ち直させる「留学効果」と言われるものである。

△忘れてはならないホストファミリーと受け入れ学校の努力

留学効果を生むまでの過程で忘れてはならないのが、鷹揚(ようよう)に、寛大に、かつ親代わりとして時に厳しいホストファミリーの存在である。個別のカウンセラーや指導者を配し、何かにつけ心を尽くす学校の受け入れ体制や努力ももちろん忘れてはならない。
この両者の心と、適切で辛抱強い対応がないかぎり不登校生の留学は成立しない。日本で居場所のなかった不登校生が、留学によって適切に蘇るとすれば、この人たちこそが、立役者というべきである。
  

△危険な日本での「甘え」のブリ返し

しかし現実には、甘やかされた日本人留学生を受け入れた学校やホストファミリーの苦労が絶えない。滞在が慣れてくるにつれ、戻ってくる「甘え」はその要因の一つである。夜更しによる朝寝坊、遅刻、喫煙、異性交遊、11時、12時となる遅い帰宅、やがては学校を欠席がちとなる。これが長引くと留学どころではなくなり赤信号となる。

△重要な親の子に対する「アメ」と「ムチ」の使い分け

親が子どもを留学させる際に十分覚悟してもらいたいことは、「留学を完結させるまでは帰国させない」という強い気持ちと願望を持つことである。つまり、卒業するまでは日本には帰さない強固な意思を持ち、子どもにきちんとその旨を宣言しておくことである。とくに母親は近視眼的な愛情ではなく、木を見て森を見る複眼的な愛情を注ぐ構えが重要だ。
不登校生には、独りでは生きていけない臆病なパラサイト感覚の子が多いので、「卒業するまでは日本には帰れない」断崖に立つ危機意識を持つよう親が宣言しておくことが、不登校生の留学を成功させることであることを銘記すべきだ。昔から言われる「アメ」と「ムチ」を使い分けながら是々非々で子育てをすることが、子どもの成長と留学の成功にもつながるということである。

 

若狭真二(わかさ しんじ)
1981年より米国ワシントン州のNPO法人代表として、各国の留学、ホームステイ、海外研修事業に従事している。ピース国際交流センター代表。

 

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