スタディー−留学・英会話記事
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篠原幸子
静岡出身。短大を卒業後、2年間のOL生活。1997年9月7日渡加。カモーソン・カレッジを経て現在はUniversity of Victoriaで女性学を専攻中。

卒業直前のトラブル

ロッキーより

無事に卒論を書き上げ、「後は卒業を待つばかり」と思いたかったが、私はまだ卒業に必要な単位を満たしていなかった。それは私がカレッジから大学に編入した時期が5月であったことと、夏の間に受講できるクラスも日本への帰省で逃していたためだ。念のためアカデミック・アドバイザーに私の卒業単位を点検してもらったところ、あと4クラス分の単位が必要であることがわかった。

見方を変えれば「好きなクラスを4つ取れる」ことなのだが、急にそう言われても、どんな科目を選んだら良いかはすぐには分からなかった。そんな矢先、専攻の女性学でお世話になったクリスティーヌ教授から、「オーナー・スチューデントをやってみる気はないか」と声をかけられた。オーナー・スチューデントとは、学部によって異なる場合もあるが、ある一定の成績を保ち、自分の専攻している学部で一般の学生よりも多く単位を取る学生のことをいう。女性学の場合にオーナー・スチューデントとして卒業するには、4クラス分の追加単位が必要であった。

バンフのゴンドラで

早速、教授と会って話を聞いた。説明によれば、オーナー・スチューデントの学位は将来北米で大学院を目指している者にとっては不可欠なものらしい。しかし、女性学のオーナー・スチューデントの場合、一年間分の単位を取得しなくてはいけないとのこと。半年間かけてやっと卒論を書きあげたばかりの私は、もっと長い時間をかけてリサーチを行い論文を書き上げなければならないと聞かされて、気が遠くなった。多くの人からアドバイスをもらったが、「果たして一年もかけてリサーチしてみたいことが自分のなかにあるのだろうか?」という疑問にたどり着いた。リサーチしたいものがなければ、例えオーナー・スチューデントが素晴らしい学位だろうと取る意味はない。

卒論で扱った<従軍慰安婦問題>をさらに深くリサーチすることも考えたが、これは教授の反対にあった。従軍慰安婦問題に携わっている教授がいないという理由だった。
次に、自分の立場を利用して、留学生が抱えている問題をリサーチすることを考えた。女性学との関係を疑問に思う人もいるだろうが、女性学では、女性のみならず、弱い立場にある人間が抱えている問題にも取り組むことがある。

カナダは留学先として良い条件をそろえている。しかし、留学生が直面する問題がまったくないわけではない。例えば、カナダは多国籍文化が国策で、人種差別を軽蔑する思想が定着しているが、差別感をもたない人がまったくいないわけではない。
「そうだ、この問題を検証しよう!」
教授にこのことを話すと、学部内で人種差別問題に深くかかわっているアジア系の教授を推薦してくれた。早速論文のプロポーザル(趣意書)を送って連絡を取ってみると、担当教授になることを快諾してくれた。一度もクラスを取ったことのない教授だったので少し心配だったが、時間的にも余裕がなく、また信頼している教授の推薦ということもあって、この教授のもとで一年間のリサーチをすることを決めた。

アルバータ州会議事堂の中から

ところが、安易に担当教授を選んだのが間違いだったと気づいたのは、リサーチを開始し、論文を5ページ程度書き終えた頃だった。
すべてが順調に進んでるかに見えたのだが、教授から呼び出しを受け、当初提出した論文のプロポーザルに問題があると言われたのだ。
「今更、なぜ?」というのが私の正直な感想だった。
教授は自分の教えているクラスへの出席と、プロポーザルの書き直しを要求してきた。プロポーザルの書き直しはさておき、以前すでに他の教授の下で同じクラスを取っていたため、このクラスを再度取ることについては承諾できなかった。教授の説明によれば、「以前取ったクラスは白人の教授が担当していたが、自分はアジア人の立場から選んだ教材を取り入れているから」とのこと。私は耳を疑った。聞きようによっては、人種偏見の土壌を育てるような言葉ではないだろうか?

私は、すぐにクリスティーヌ教授に連絡を取った。クリスティーヌ教授は私の話を聞くやいなや、直ぐに担当教授に連絡を取ってくれたが、私へのクラスへの出席の要求が変わることはなかった。そればかりか多忙という理由からリサーチへの協力も得られず、散々な有り様だった。教授への信頼をなくした今、この教授のもとでリサーチを続けることは考えられなかった。教授の変更を願い出たが、たった5人しか教授がいない学部とあり、代わりの教授を探すのは不可能だった。クリスティーヌ教授は責任を感じたのか、彼女のリサーチ分野である<女性文学>をテーマにすれば、担当を引き継いでくれると申し出てくれたが、夏の間にがんばって探したいろいろな文献を無駄にするのはとても心苦しく、また小さな学部でいつまたその教授と顔を合わせるかと考えると、オーナー・スチューデントの学位をあきらめるのが一番良いと考えた。
「振り出しに戻っただけだ」と自分に言い聞かせたが、心の中は悔しさと怒りでいっぱいだった。

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