カナダの高校の作文の授業では、正しい文法で書かれていることが最も重要視される。また、興味を引くような導入や、論理的な流れができていなければいけない。ただ思ったことを書いただけの作文では評価が低い。作文は、加藤君が現在高校で受講中の科目のなかでも最も苦労しているものだ。しかし、高校で学ぶ作文技術は、大学で必ず必要になるレポート作成に生かせるもので、努力する価値のある授業だ。 カナダでは、大学進学にあたっては高校の内申で合否が決まる。加藤君の学ぶ化学・物理の科目では、学期ごとの試験だけでなく、日頃の課題や実験記録の結果も内申に反映されるので、毎時間気が抜けない。ただ、評価方法は相互評価ではなく絶対評価であるため、みんなが真剣に取り組んでいる化学・物理のクラスでは、A評価の生徒が続出している。 加藤君が感じるカナダの高校の魅力の一つは、選択科目の種類が多く、宿題の多い科目の曜日を振り分けるなど時間割も自分に適した形にアレンジができることだ。さらに科目が簡単すぎると感じたら、学校で行われる夏季講座(サマー・スクール)を受講して、次の学年レベルに飛び級できる。 加藤君は、中学生の時に父親の上海転勤が決まったことをきっかけにカナダ留学を決めた。両親について中国に行くよりは、英語圏で英語の力を伸ばし、親元を離れて生活する経験を積む方が自分にとってプラスになると考えたのだ。日本で中学2年を終え、カナダに来たのは2001年の5月だ。初めは留学生の少ない郊外の学校の方が英語が上達するだろうと、バンクーバーから車で一時間半ほど行った町にある高校で留学生活をスタートした。
入学して間もない頃は、作文が多くて苦労したが、英語の実力がついていくうちに、学習内容もテストも簡単に感じられてきた。ところが、さほど努力しなくても良い点が取れるようになった頃から、逆に学習への意欲が萎えてきてしまった。周りに必死に勉強する生徒のいなかったこともその一因だった。そこで加藤君はバンクーバーの高校へ転校することにした。
日本で熱心に取り組んでいた野球は、現在の高校には部活動として存在しない。カナダのスポーツといえば、バスケット・ボールやサッカーが中心なので、「自分もそうしたスポーツをやっていたならば友達がもっと増えたかもしれない」、とやや残念な気もしている。だが、今は課外活動には関心がなく、勉強や趣味に気持ちが集中している状態だ。 加藤君は、年に2回は上海から日本に戻ってきた両親のもとへ帰り、友達とも再会を楽しむ。食べ歩きの好きな加藤君は、帰省した際には雑誌に載っている流行の店に友達とよく出かける。留学先のバンクーバーには世界各国の料理があるが、食事にお小遣いを使おうとする友達が周りにいないことや、加藤君自身、極力ホーム・ステイ先で一緒に食事をするようにしているため外食することはめったにない。当面、グルメの楽しみは日本でのものに留めておくことになりそうだ。だが、2年後には大学生となって、一人暮らしの生活を始めて自分で料理をすることを今から楽しみにしている。進学はカナダの大学、できればブリティッシュ・コロンビア大学かサイモン・フレーザー大学が希望だ。 カナダで生活するようになってから、それまで短気だった性格がのんびりしてきたように加藤君は感じている。もう一つの変化は、帰省の際に旅行代理店を訪ねて航空券を予約購入する手続きを行ったり、お金の管理など、それまで親任せだったことを、自分でするようになったことだ。親元を離れて精神的にも自立してきた分、周りの高校生が子供っぽく感じられることもある。日本のことも客観的に見えるようになってきた。年齢よりもやや年上の印象を受ける加藤君の話し方が、その成長ぶりを物語っているようだ。 |