ライフ - 連載コラム記事


西田 優希さん 

西田 優希

(にしだゆうき)
大阪府岸和田市生まれ。関西大学文学部卒業。OL生活に物足りなさを感じて1999年にニューヨークへダンス留学。現在は、英会話講師。趣味は映画鑑賞。 http://yewkiny.blog66.fc2.com

私はニューヨーク滞在中に数え切れないほどのオーディションを受けた。

 オーディション情報は、ダンス学校の掲示板やBACK STAGEという新聞に多数掲載されている。内容は様々で、超大物アーティストのバックダンサー、有名ダンスカンパニー、コマーシャル、またニューヨークらしくブロードウェイのミュージカルなど華やかなものも多数ある。もちろん、無名のダンスカンパニーや小規模なショーの募集もたくさんある。また、日本のディズニーランドやUSJのダンサー募集なども見かけた。

 さて、オーディション会場には独特の空気が流れている。ピリピリとした雰囲気に相反するかのように、ダンサー達の顔はみな満面の笑みである。応募書類を提出する時に並ぶ順番や、課題の振り付けが始まる時に立つ位置など、「お先にどうぞ」「ありがとう、でもあなたがお先にどうぞ」と譲り合いのラッシュがそこかしこで見られる。 ちなみに、普段のレッスン中は場所の取り合いに火花を散らす場面を見かけるが、やはり、オーディションというのは、人を何か特別なよそ行きの顔に仕立てる力をもっているようだ。

 よそ行きの顔といえば、オーディションに来ているダンサー達は一様に化粧が濃い。舞台メーク並みに濃い人もいる。文字通り「よそ行きの顔」。私から見ると、アジア系以外の人たちは、もともと顔立ちがくっきりしているのだから何もそこまでしなくても、と思うのだが、気合が化粧にも表れるらしい。

 そんなダンサー達に囲まれながら、つい数年前までは普通のOLだった私はオーディションを受け続け、そして落ち続けた。「オーディションなんてもういやだ」と思いながらも、それでもまた次のオーディションに足を運ぶ。そこまで私を駆り立てたものは、「OLを辞めて選んだ道だから後悔したくない、時間を無駄にしたくない」との思いだった。 結局、合格したオーディションは2つだけ(それ以外にも小さなショーに出る機会をいくつかもらったが)。やれるだけの事はやった。ある時、これが私の実力だとあっさりと認めることができた。後悔はなかった。そして、私は帰国を決意した。


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