ライフ−連載コラム記事
  カナダに住む ことばと カナダ横断旅日記  

7月1日、快晴。

大陸横断第1日目。大陸横断道路トランス・カナダ・ハイウェイを大音量で音楽を聴きながら快適なドライブ。山地に入るとラジオが聞けなくなるため、20枚ほどCDを用意していた。なかでも、ヤンウーがもってきた韓国人歌手のCDをいちばん多く聞いた。バンクーバーから遠ざかるにつれて、民家や町の数が少なくなり景色は山がちな地形に移り変わっていく。「鹿の飛び出し注意」の道路標識が数多く見られた。今日の目的地はバンクーバーから東へ約500キロのところに位置するネルソンだ。

車を走らせ始めてからの最初の休憩地はオハヨス。きれいな湖の湖畔に到着したのが5時半。日はまだかなり高く、気温も高かった。クーラー・ボックスの中から、ハム、チーズ、レタス、マヨネーズ、ジャムを取り出し、湖畔でサンドイッチを作り、夕食とした。食事の後は、持参したフリスビーで運動。これから1週間、かなりの時間を車内で過ごさなければならないため、休憩時間に体を動かせるようにフリスビーとボールを持参していた。リオと私は語学学校のアクティビティーで何度もフリスビーをしたことがあったが、ヤンウーは初めて。何とか投げることはできたが、フリスビーはあさっての方向へ。リラックスした後、再び私たちは目的地を目指して車を走らせた。ネルソンまであと約200キロ。

カナダは北緯50度前後に位置するため、夏の日照時間が長く午後10時ごろまで明るい。私たちは明るいうちにネルソンに着く予定だった。カナダのハイウェイの標識は日本のものに比べると、小さく、注意深く見ていないと見逃しやすい。このことは車でロッキー山脈に行った経験があるリオが知っており、注意深く標識を見るようにしていた。しかし、カナダ全土の主要道路だけが載っている道路地図しか持っていなかったため、一度ハイウェイから下りた後、再びハイウェイを見つけるのに手間取った。

ネルソンまであと少しというところで、太陽が沈み、辺りが暗くなってから、突然目の前に濃い霧が発生した。日中は30度近くまで気温が上がるが、夜になると10度近くまで下がる。そのため空気中の蒸気が凝結して濃い霧が発生する。道路の両側にはうっそうと木が茂り、車のライトしか明かりがない。1メートル先を見るのが精一杯だ。リオはロッキーに行った時も同じような状況に遭遇したことがあるらしい。それだけに落ち着いていた。ヤンウーと私は生まれてはじめての経験にかなりハラハラしていた。

それからしばらくして濃霧も無事抜け、8時間のドライブの後、ネルソンに着いたのは夜の11時過ぎ。これから今夜の宿を探さなければならない。車で町を一周し、目星をつける。私は今まで目的地に着いてから、宿を見つけるという経験をしたことがない。ここでも、リオの経験が役に立った。2、3軒のホステルで空き部屋の有無と値段を聞いて回り、設備、予算を照らし合わせて、条件が合ったところに宿泊を決めた。夕食の時間が早かったため、3人とも空腹だった。出発前に買っておいた韓国のカップラーメンを食べて床に就いた。

7月2日、快晴。大陸横断2日目。

湖畔で写真を撮った後、観光する間もなく午前中にネルソンを出発し、北東約300キロ先に位置する次なる目的地カルガリー(アルバータ州)を目指した。カナダには6つの異なるタイムゾーンがある。その一つの境界線が、ブリティッシュ・コロンビア州とアルバータ州を分断するロッキー山脈である。その境界線を越えた時点で、私たちは時計を1時間早めなければならない。つまり、1日が23時間になる。いくらがんばってドライブしても、境界線を通過すれば自動的に1時間失う。先を急がなければならない。

ロッキー山脈を越えると、辺り一面に牧草地帯が広がった。と同時に、私たちの進行方向に真っ黒い雷雲が待ち受けていた。激しい光と共に稲妻が走る。しかし私たちの上には青空が広がっている。なんとも不思議な光景である。私たちは巨大な生き物のような嵐に向かって一直線に車を走らせた。しばらくして雨がぽつぽつと降り始めたと思ったら、次の瞬間前が見えないほどの大粒の雨に変わった。雨音があまりに大きすぎてお互いの声が聞きとれない。スピードを落として慎重に進む。嵐を抜けると再び青空が広がり、そこには今まで見たこともないような鮮やかな虹がかかっていた。

私たちは無事カルガリーに到着し、モーテルに一泊した。そこのスタッフで北米大陸横断経験のある人が、サスカチュワン州に入った後、アメリカに入って東を目指したほうが短時間で行けると教えてくれた。私たちは話し合った結果、ヤンウーの負担を最小限に抑えるため、時間のかからないアメリカのルートを選ぶことにした。

7月3日、曇り。大陸横断3日目。

子供のころから地平線を見るのが夢だった。今まで水平線は見たことがあっても、地平線を見る機会はなかった。この日、長年の夢がかなおうとしていた。カルガリーを出発し、1号線をひたすら東に進んだ。アルバータ州からサスカチュワン州に入り、快適に車を走らせていると、突然目の前に「STOP」のサインを持った警官が私たちの前に現れた。私たちは指示に従い道路の横に車を止めた。警官は、私たちの車が速度制限の時速100キロを越えていた、と言った。そして警官はヤンウーに国際免許証とレンタカーの契約書を出すよう要求。しかし、ヤンウーは警官の言っていることを理解していない様子だった。私はヤンウーが混乱して警官の英語を聞き取れていないのかと思い、不安になった。さらに警官はヤンウーにパスポートを見せるように言った。車内に緊張感が走った。(続く)

 禁無断転載 Japan Advertising Ltd. - Canada Journal