ライフ−連載コラム記事
  カナダに住む ことばと カナダ横断旅日記  

(前号まで)
アルバータ州からサスカチュワン州に入り快調に車を走らせていると、突然目の前に「STOP」のサインを持った警官が出現。制限速度オーバーか?警官は運転していたヤンウーにパスポートとレンタカーの契約書を見みせるように言った。車内に緊張感が走った。

ヤンウーは恐る恐る国際免許証を取り出し、警官に渡した。警官はそれに目を通した後、レンタカーの契約書を見せるように再度要求した。ヤンウーはやっと警官の言っていることを理解したらしく、いろいろな書類の入ったファイルの中を注意深く探した。ひと通り調べた後、ヤンウーは警官に「契約書はもってない」と片言の英語で言った。
この時、一つの疑問が私の頭の中に浮かんだ。航空券やレンタカーの予約から、トロント、モントリオール、ニューヨークの宿泊先など、旅行全日程の計画をすべて一人で立てたヤンウーが、「レンタカーの契約書」という大切な書類を無くすということがあり得るだろうか。そんな思考をめぐらせているうちに、警官はヤンウーだけでなく、リオにもパスポートを見せるように要求し、さらにトランクの中を見せるようにとまで要求した。警官はヤンウーとリオのパスポート番号を控えた後、トランクの中を注意深く調べた。やはり契約書は見つかることはなく、速度制限について厳しい警告を受けた後、私たちはやっと解放された。

私たちは再びハイウェイを走り出した。さっきまでとはうってかわって、車内には和やかな雰囲気が漂う。私は、疑問を晴らすために、ヤンウーにレンタカーの契約書がどこにあるか聞いた。驚いたことに、契約書はヤンウーが何度も探すフリをして調べたファイルの中にあり、ヤンウーはそれを隠していた。

ヤンウーは契約書を隠した理由をこう説明した。「カナダでは交通違反で警察につかまった場合、指示に従って後日罰金を支払わなければならない。レンタカーの場合でも、会社を通じて請求される。契約書には車の登録ナンバーが書かれてあるため、私たちの車がどこの会社のもので、どこの誰がレンタルしているか特定できる。つまりあの時、契約書を警官に見せていれば、私たちの車がどこのレンタカー会社のものか特定でき、私たちはスピード違反で罰金を払うはめになっていただろう」
私はヤンウーの機転に感心するしかなかった。混乱して警官の英語が理解できていなかったのではなく、理解できないフリをして、罰金を払わずに解放されるのがねらいだったのだ。

さらに驚いたことに、ヤンウーのあの時の最大の関心事は、時間だったと言う。「ただでさえ時間に余裕がないのに、警官に止められたせいで約45分のタイムロスが生じた」と不満をもらした。なかなか肝が据わっている。

しばらくして、車窓から見える景色は、多少の起伏があった土地から全く起伏のない、本当に平坦な土地へと移り変わった。360度視界をさえぎるものは何もない。目の前に広がって いるのは、私が憧れていた「地平線」。長年の夢が叶った瞬間だった。しかし、私は感動を覚えるわけでもなく、ただただバックシートで退屈と戦っていた。このカナダ横断旅行に出発する前に、ホストファミリーや語学学校の先生から「カナダの平原3州、アルバータ、サスカチュワン、マニトバには牧草地が無限に広がっている」と聞かされていたが、確かにその通りだった。永遠にこの景色が続くような気さえした。

アルバータ州のカルガリーから東に約900キロに位置する町、ブランドン(マニトバ州)に着いたときの時刻はすでに午後11時30分。私たちは心身ともに疲れきっていた。いつものように、今夜の宿を探す。見つけたモーテルでヤンウーがチェックインしようとした時、受付の人のご主人が韓国人ということで、私たちは正規の料金より安く泊まれることになった。災難ばかりは続かない。世の中うまくできているものだ。

7月4日、曇り。大陸横断4日目。

今日はカルガリーのモーテルのスタッフがくれたアドバイスどおり、アメリカに入国する日だった。ブランドンから南へ約100キロ、カナダ(マニトバ州)とアメリカ(ノースダコタ州)のボーダーラインに着いた。カナダからアメリカに野菜や果物などの生鮮食品を持ち込むことは法律で禁止されている。しかし私たちの車内には食べ切れなかったオレンジが5つあった。まず私たちは車から降りるように言われて、一人ずつボディチェックを受け、その後、建物内で入国審査を受けた。その間、私たちの車も隅から隅までくまなくチェックされていた。予想通り、5個のオレンジは姿を消していた。再び車に乗り込んで走り出すまで約1時間かかった。

アメリカに入ったからといって車窓から見える景色に大きな変化はない。ここがアメリカであるという目印は、星条旗だけだった。国境から約300キロのドライブの後、私たちはノースダコタ州とミネソタ州の境界線に位置するグランドフォークスに着いた。時刻は午後5時。ヤンウーの体調を考えて今日はこの町に宿泊することにした。1日約8時間、ずっと同じ姿勢で座りっぱなしのヤンウーの腰にはかなりの負担がかかっていた。湿布を貼って痛みを紛らわす。

私たちは旅が始まってからお金を節約するため、サンドイッチやファースト・フードしか食べていなかった。そこで今日の夕食は、奮発してレストランで食べることにした。たまたま見つけたモンゴル料理店に入る。一人8ドルで食べ放題。安い。私たちには打って付けだった。久しぶりにまともな食事にありつけるということで、私たちはかなり興奮していた。テーブルに案内されると同時に、それぞれ皿を持って、食べ物のある方向へまっしぐら。1回、2回、3回とお代わりのために席を立つ。1時間後には3人とも動けないくらいお腹がいっぱいになっていた。

大きなお腹を抱え、レストランからモーテルに戻る途中、「バーン」という聞き覚えのある音がした。車の窓から夜空を見上げると、そこには色とりどりの花火が上がっていた。私たちは車を止めて、しばらくの間、夜空に咲くきれいな花に見入った。今日7月4日はアメリカの独立記念日。そのためアメリカ国内では数え切れないほどの花火が打ち上げられている。花火の後、私たちは気分を良くし、ビールを買ってモーテルの部屋で飲み、ほろ酔い気分で床に就いた。(続く)

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