海外留学の今昔
「留学」といえば、つい数十年前までは選ばれた人のみに与えられた特権だった。 しかし、今や年間15万人の人たちが年齢に関係なく、世界各地へ留学している。観光旅行を含めると、2005年度には1,600万人もの日本人が海を渡ったそうだ。 留学そのものの方法や形態にも大きな変容が見られる。以前は、留学といえば大学、大学院への留学が相場だったが、近年では数ヵ月の語学研修やインターンシップなどを含めて広く「留学」という言葉を使っている。 留学する年代にしても、10代から70歳代までと広がりを見せ、若年層とともに年々、中高年層の留学組が増えている。学生のとき果せなかった夢を子育て終了後に、あるいは退職後の第二の人生の門出にということなのだろう。いずれにしろ喜ぶべき状況だ。 留学者数も、バブルの生成や衰退を経て、この数年来はうなぎ上りの回復をみせている。これから数年後、いわゆる団塊の世代が退職を迎え、人生のセカンドステージにさしかかるときは、この海外留学者数がさらに増え、短期・長期を含め、50万人を超えるのではないかとさえ言われている。年代を超えて、いよいよ日本人の海外留学熱が本格化することになる。
ホームステイの始まり一方、「ホームステイ」という言葉も身近な言葉になっている。このホームステイ、さかのぼれば第一次世界大戦後の退廃した時代に始まったといわれる。アメリカのワットさんという人が、戦後の退廃した世相の中で、二度と凄惨な殺戮を繰り返さないためには、国の違いや民族、文化の違いをたがいに理解することが大切であり、そのためにはまず自分の国の家庭生活を外国人に体験してもらい、素顔のアメリカ人に接してもらおうとしたことが次第に広まっていったものとされている。 また太平洋戦争後は、アメリカ上院議員だったフルブライトさんが、「ホームステイ体験こそその国を理解するのに最も理想的な方法」として、自ら設立したフルブライト奨学金制度のほかにホームステイ体験を積極的に奨励した。
「留学」と「ホームステイ」の混同 ところでこの<留学>と<ホームステイ>、不思議なことに同義語として語られることがよくある。旅のプロとされる旅行代理店の人たちですら、「留学」と「ホームステイ」を区別せず無意識に使っていることがあり驚かされる。
留学の効用留学は、日本では得られない分野や外国語を習得するための有効な手段だ。
ホームステイの効用一方、ワットさんやフルブライトさんが考えたように、異なった文化や生活習慣を理解し合い、人々との交流を深められる手段はホームステイの他にはないだろう。ユネスコ憲章の前文に、「戦争は、人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。おたがいの生活や習慣を知らないことが諸国民の疑惑や不信を招き、多くの戦争を引き起こした」という条文がある。ホームステイはこの憲章精神を体現化するものであると言っても過言ではない。
日本人の国際化は、留学とホームステイで世界のグローバル化は否応なく進んでいる。これまでのようにすべてを日本で賄える時代はとっくに過ぎた。インターネットの普及や輸送手段の発達で、もはや国境はなく、多様性の中で仕事や生活を営む時代だ。一人ひとりが、母国語のほかに世界の共通語である英語を身に付け、異文化への対応力を培うことが必須の要件となっている。そのためには、「留学」と「ホームステイ」を使い分け、うまく活用しながら国際感覚を身に付けていくようにしたいものだ。
若狭真二(わかさ しんじ)
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