ライフ - 連載コラム記事
Live in Canada
新婚旅行はワーキングホリデー!

猪田雅公(いのだ・まさあき)さん

大阪府東大阪市出身・39歳
ヤマセトレーディング LTD / QIC エンタープライズ代表

live in canada片道切符になった新婚旅行

 カナダ・バンクーバーの観光名所、グランビル・アイランドのそばに、倉庫を改装した大きなアウトレットショップがある。カナダの名産品が市価より安く買えるとあり、連日大勢の日本人客で賑わう。猪田雅公さんはそのショップQICの代表。近年はお土産の販売だけでなく、家具のレンタル・引越し、各種イベントなど、アイデアを盛り込んだ多角的サービスで目を引く、バンクーバーの名物会社だ。

 猪田さんがカナダ・バンクーバーを訪れたのは、1992年1月。大学を卒業し、2年間勤めた貿易商社を辞職するという大きな決断であった。もちろん周囲は大反対だったが、当時交際中だった妻の洋子さんと供に、働きながら1年間滞在できるワーキングホリデービザを取得した。そして渡加前に洋子さんへプロポーズ。「お金がなかったので、ワーキングホリデーは新婚旅行の代わり(笑)。でもまさか片道切符になるとは思わなかった」。


渡加後3ヵ月で起業、妻が妊娠

live in canada  バンクーバーでの生活は、何もかもが珍しく、若い猪田さんには楽しくて快適な日々だった。そしていつしか「何とかしてこの国に残れないだろうか」と思うようになった。ワーキングホリデーのビザでは1年しかいることができない。いろいろ調べたところ、当時の法律では、カナダで起業すれば経営者である自分自身に対してワークビザを申請できると知った。「会社を起こそう!」。バンクーバーに来て僅か3ヵ月、猪田さんは有限会社ヤマセトレーディングをたった一人で立ち上げた。

 しかし、会社を起こしたものの、バンクーバーに来たばかりの猪田さんには友人も知人もいない。ビジネスで一番重要なコネクションが何もないのだ。事業のビジョンも決まっていなかった。さらに、新婚の妻が妊娠。いろいろ検討して、カナダにある珍しいものを日本へ持っていけば売れるはずと、猪田さんの得意分野である貿易事業を行なうことにした。事業内容は、在庫を抱えることが無く資金も少なくて済む輸出貿易を選んだ。もし資金が無かったら、注文主から先に手付金をもらって仕入れることもできる。リスクを最低限に抑えて事業がスタートした。


スーツケースを抱え営業行脚の日々

  1990年代当時は、日本で並行輸入が流行りだした時期。スポーツブランドのスニーカーや、外国製ブランドの化粧品・香水が特に人気だった。ツテがなかった猪田さんは、それら売れ筋の商品を店頭で買っては日本へ送るという方法をとっていた。そんな商売でも、日本へ持って行けば高い値段で売れ、儲かった。カナダで普通に見かけるものが、日本では希少なのである。商品はパチンコ店の景品などに広く需要があり、間もなく、大手のバイヤーからもオーダーが舞い込むようになっていった。


 カナダのビジネスシーンに着々と信用ができ、猪田さんはゴアテックス社の営業を任されることになった。サンプル商品を渡され、日本で契約を取って来て欲しいと言われた。大きなスーツケース 2 つにサンプルのジャケットをぎっしり詰め込み、東京駅に降り立った。タクシーを使う金銭的ゆとりなどない当時は、スポーツ店を回るのに、階段にぶつかるたび、1つ 30 kgのスーツケースを 1 つずつ上げ下ろしした。そんな地道なコネなしの飛び込み営業で、少しずつ得意先を作っていった。


スノボブームに乗り市場拡大!

 その後、日本にスノーボードブームが到来した。今でこそ大手商社が独占するような大ブランドとなったカナダのスノーボードメーカーも、当時はまだ零細企業。頼めば喜んで商品を託してくれた。そして次第に猪田さんのマーケットは広がり、現在は京都に本社がある通販会社の北米買付代理店を行っている。また、日本から来るバイヤーのために、通訳や商談交渉にも立ち会う。「英語力は来加3年目で止まったまま(笑)」と謙虚に語る猪田さんだか、ビジネスの現場はもちろんシビアな英語の世界である。

 貿易会社を起こしてから10年が経った2001年、今度は「一般の人に向けて商品を販売しても良いのでは」と、別会社QICエンタープライズを立ち上げた。一般客に売るには店舗も必要となり、スタッフも増やした。不便な場所であったが、巧みなアイデアを次々と打ち出し、有名店へと急成長していった。利用者の声を反映しているうちに、荷物の運送や中古家具の買取・販売・レンタルという新部門も誕生した。


家族でキャンプやスキー、ゆとりある生活

 金銭面で苦しくなり、借金したこともあった。「何か問題が起きると、『カナダに来たせいだ』と妻から言われた(笑)」。カナダで生まれた3人の子どもたちもすでに15歳、9歳、8歳と大きくなった。猪田さんの目下の楽しみは、家族での夏のキャンプ、冬のスキーだ。会社以外では様々な日系企業の団体にも関わる猪田さんの日々は多忙だが、「日本にいた頃より気楽に生きているし、楽しんでいる。水が合っているのでは」と語る。



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