最近読んだ本 私は、外国へ行くたび必ず地元のスーパーと本屋に寄ることを実践している。 カナダでは図書は意外に高額で、ペーパーバックでも新刊は1冊日本円で1000円以上することもあり、つい何冊も買ってしまうと結構な出費になる。品数豊富で閲覧用の椅子や併設カフェもある大型書店でお目当ての本を選んだら、実際に買う時はオンライン書店や、安売り書店を利用する人が多い。なかには、買わずに書店内の椅子に座り込んで1冊読みきってしまうツワモノもいるようだ。私はそこまでの根性はないし、選び抜いた本を買うときの高揚感を味わいたくもあるので、「帰国するとき箱詰めして送るのが大変だな…」という心配を抑えつつ、今日もまた1冊抱えて家路についた。 そんなこんなで、カナダへ来てからも膨張しつづける私の本棚から、最近読んだものを紹介したい。こと読書に関しては、自分の守備範囲(通訳と翻訳)に限定せず興味をもったものは何でも読むようにしているつもりだが、実際に読み出すと、「この部分はどう訳すか」といつのまにか翻訳者の目で読んでいる自分に気付く。ただし今回紹介するのはまさに言葉に関わる書籍なので、買おうと決めた時からすでに職業意識が働いていたとは思う。 Lynne Truss, 昨年英国で大ベストセラーとなり、北米でも快調に売れ続けている本だ。 例えば、本来ならば、 と書かれた例は、深く考えずに eat の後ろにコンマを1つ加えてしまったため、全く違った意味の文章ができてしまったという笑い話だ。この「パンダ・ジョーク」の他にも、おかしくて吹きだしてしまう句読点の誤用例(すべて英語のネイティブ・スピーカーによるもの)が書中には満載されている。 日本でも日本語を題材にした本はよく売れるが、英語圏でも事情は同じらしい。「正しい英語の書き方が分からずひそかに悩みながらも誰にも聞けなかった」という多くの人にこの本はうけているようだ。句読点は文章の意味を明確にするだけでなく、文章のリズムを左右する役割もあり、特に文学作品ではその傾向が顕著だ。英文和訳するとき、原文で使われている句読点が担っている微妙な意味合いを自然な訳文のなかでどう反映させるか、いつも頭を悩ませられる。日本語から英語にする際も、適切な句読点の打ち方にはもちろん細心の注意を払う。そうした悩みに解決の糸口を示してくれる本だといえる。翻訳者には無論のこと、日本で仕事や勉強で英語を読み書きする機会の多い人にもぜひ一読をお薦めしたい。 あくまで英語の表記に関する内容とはいえ、日本語の句読法もクエスチョンマークやダッシュなど欧文の記号を取り入れながら発達してきたから、英語圏の問題を全くの他人事と無視はできないだろう。書中ではEメールの絵文字にも言及しているが、日本でもEメールのおかげで横書きや英語混じりの文書を書く機会が増え、外国語の書き言葉との垣根が少しづつだが低くなって来ているように思える。いつかは日本語の文章でもコロンやセミコロンが当然になる日が来ないとも限らない。ユーモア小説を読む感覚で英語圏における事情をのぞきつつ、日本語の将来に思いをはせさせると共に、「言葉は刻々変化する生き物だが、使いやすく理解しやすいものにするには使い手の自覚と努力が必要」ということをも考えさせる一冊だ。本書についてさらに詳しく知りたい場合は、ウェブサイト(英語)を参照されたい。www.eatsshootsandleaves.com(ついでに、もし日本でこの本が翻訳されることがあったら、表紙カバーのパンダのイラストが可愛いので是非そのまま使って下さい、と出版元にお願いしたい。) |
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