ライフ−連載コラム記事
  ことばと ワーホリ追跡日記 Hello, Canada

8月最初の月曜日、燦々と輝く太陽の下で、太陽に負けないくらいきらきらと輝く人に出逢った。
板橋智之さん――1983月26日生まれ、群馬県出身、21歳。高等学校卒業後、部活動(ボクシング)の推薦により札幌にある大学へと進むが一年で中退。現在スポーツ・マーケティングを学ぶために、バンクーバーに本拠地をもつマイナーリーグ<バンクーバー・カナディアンズ>でボランティア・スタッフとして働いている。

バンクーバー・カナディアンズのオフィスは、バンクーバーのダウンタウンを見下ろすクィーン・エリザベスパークの球場のなかにある。球場内に入ると試合開始までまだ6時間もあるというのに既に活気に満ちていた。
案内してくれたスタッフが大きな声で「Tomo!」と板橋さんに影に声を掛けてくれ、呼ばれて立ち止まった彼は、年相応の爽やかな笑顔で迎えてくれた。少し童顔気味な顔の造り、そしてきらきらと輝く瞳がエネルギーを感じさせる。とても魅力的なナイス・ガイだ。
私たちは一通りの挨拶を済ませ、早速インタビューを開始した。

18歳の壁〜One of themにはなりたくなくて〜

Q:学生時代の夢は何でしたか?
A:そうですね、以前はただ漠然と過ごしていました。別段夢も無く、今思えば随分甘い考えをもっていました。高校時代はやんちゃなこともたくさんしたし、大学も部活の推薦で進んで、流されるように生きてました。親のありがたみも一人暮らしを始めてからわかったようなもので。大学生になって初めて周囲を見回して、自分を省みて、何も無いことに気付いたのです。そこで思ったのはOne of themは嫌だということです。

邂逅〜イチローとの出逢い〜

Q:スポーツ・マーケティングに興味をもったきっかけは?
A:
大学を一年で辞めようかと悩んでいた時期がちょうどイチローがマリナーズに入団した一年目なのです。その当時僕は日がなだらだらと過ごしていたわけで、同じ一年目という状況でこうも違うのかと愕然としたのです。それできっぱり大学を辞めて新しい道に踏み出そうと思ったわけですが、自分の好きなこととは何だろうと考えたら、やはりスポーツで、スポーツに携わる何かをしたいと思い、どうせならきっかけをくれたイチローに恩返しがしたくて。
日本ではまだまだスポーツ・マーケティングは遅れています。球団は独立した市場をもたず、全てオーナーの会社が動かし、球団自体は末端にいて権限がありません。それに比べてメジャーリーグは球団が全てを執り行うのです。広報もその一環です。しっかりとした運営を行える市場があるということは選手にとっても大切なことだと思うのです。

Q:メジャーリーグと言えばアメリカですが、滞在先をバンクーバーに決めた理由は?
A:
本当はシアトルに行きたかったのですが、物価が高いということであきらめました。バンクーバーにしたのは、シアトルに近いというだけの理由でした。バンクーバーは2003年に10ヵ月学生ビザで訪れましたが、その時は学校に行きながらシアトルに通っていました。マリナ−ズのオフィスに三日間通い詰めたこともあります。マリナーズに秀臣さんという日本人スタッフがいるのですが、彼に履歴書からThank you letterの書き方まで習って、それを持って押し掛けたのです。

Q:凄い行動力ですね。マリナーズとの交渉はどうなったんですか?
A:
二日間まるっきり無視されて、三日目でやっとスタッフに話を聞いてもらえました。でも、この世界では横の繋がりが大事にされていて、4大スポーツ(メジャーリーグ、NBA、NHL、NFL)は横のつながりが強く、コネがないと就職が難しいのです。ましてメジャーリーグのスタッフは150人、アルバイトは1500人と競争社会です。だから、こんなことしても無駄だとはっきり言われました。それでも頑張ったかいはあって、僕の履歴書はしっかりと受け取って貰えました。今でもマリナーズに保管されています。

Vancouver Canadians

Q:ここではどんな仕事をしているのですか?
A:
主な仕事は試合の時にセンターボードでスコアを付けることです。雑用もこなします。今ではやる気のあることや、仕事ができることを知ってもらい(本来試合開始1時間前に来れば良いところを彼は5〜6時間前には来て様々な仕事を手伝っている)、徐々に仕事をもらえるようになってきました。ここでは結果が目に見える形で評価され、任される仕事も増えます。先日は僕が提案して、以前通っていた語学学校へバンクーバー・カナディアンズの宣伝に行きました。もっと日本の方にも球場に足を向けてもらいたくて。どうせなら日本人としての強みを武器にしたいですね。球場では野球を楽しむだけでなく、試合の合間に様々なイベントが行われるのでそれも楽しんで欲しいです。

Control your own destiny

Q:将来はどんなことをしていると思いますか?
A:
僕はいつも二つ目標を立てるようにしています。一つは5年以内の目標、そしてもう一つは10年後の目標。5年以内にはメジャーリーグのスタッフとして働きたいです。そして10年後には日本に帰り、メジャーリーグで学んだ良い所を日本の球団市場で生かす仕事をしたいと思います。目下の目標は来年ここのスタッフに採用されることです。

Q:最後に、あなたのようにカナダで頑張っている人達に一言お願いします。
A:
Control your own destinyという言葉があります。自分の運命は自分で切り開く。巡り逢いを大切にし、心技体を磨き、そして何よりも「自分なら出来る!」と信じたいです。僕も100%の自分で頑張って行きたいと思います。

レポーター: 宮城加奈子
2004年6月5日ワーキング・ホリデービザで渡加。1979年5月8日生まれ。

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