ライフ−連載コラム記事
  カナダに集う Hello Canada カナダ横断旅行日記 言葉とKOTOBA

男性ばかりの調理講習会

「男子厨房に入ろう会」のメンバーが毎月第一火曜日に集まるのは、バーナビー市にある日系文化センター調理室である。全員、バンクーバーの日本人会「桜楓会」(桑原誠也 会長)の会員である。その会員の男性有志による「男子厨房に入ろう会」は2001年2月に発足された。メンバーは現在18名である。

「桜楓会」は日本での仕事を引退、あるいは定年退職し、現在はバンクーバー市やその周辺地域に住む日本人とその家族により構成されている(2005年2月現在121家族189名)。そのなかには、日本にいた頃は包丁を持つどころか、台所に入ったこともなかった人や、仕事が忙しく調理を楽しむ時間のなかった人もいる。
講師は、ブリティッシュ・コロンビア州の日本語テレビ放送の料理番組や、地元で料理教室を開催し活躍中のクッキング・インストラクター、清水直美さんだ。講師の依頼があったとき清水さんは、「中年男性ばかりの生徒でどうなることやら」と思ったそうだ。

集合時間がだんだん早くなった

会の集合時間は12時30分。しかし、正午を過ぎたころより次々と開始時間を待ちきれない熱心な会員が集まってくる。
「参加者の平均年齢は70歳少し前でしょうか」と語るこの会の世話役の森 寛 さんによれば、講習会が始まった頃は遅れてくる人もあったが、会を重ねるうちに、集合時間がだんだん早くなってきたそうだ。
「こんにちは」「どうも」と互いに挨拶しながら会場に入ってくる人たちの顔は、遊び場に集まってくる子供たちのようにうれしさで輝いている。
厨房では、講師の清水先生とアシスタントの女性が、その日の料理の準備を整えている。
会場のテーブルには当日の調理仕上がり例が陳列され、別のテーブルには先生手作りの料理や茶菓子と共にお茶やコーヒーが用意されている。

調理実習会は、まず食事会から始まる。

テーブルに並んだ先生の模範作品を始め、用意された食事に舌鼓を打ちながら、にぎやかな会話を楽しむのだ。
楽しい食事のひとときが終わると、清水先生の「では、始めましょう」のかけ声で、参加者たちはそれぞれに配られたレシピを読み始める。
レシピは、会員の一人がパソコンを駆使して作ったものだ。

レシピを読み終えると、グループに分かれていよいよ実習が始まる。
みじん切りが得意な人、炒めるのが上手な人、調味料を合わせて混ぜるのが好きな人と、仕事の分担が無言のうちに了解されている。

メンバーの一人、結城 諒 さんは、「やれ野菜の切り方が大きいとか小さいとか、からかったり、笑ったりしながら一緒に料理することが、この会に参加する何よりの魅力です」と語る。
「きちんと見ていないと、時々あっというようなことが起こるんですよ」と笑いながら様々なエピソードを語るのは講師の清水先生。「ごぼうを下ごしらえせずに肉に巻き込んだり、材料を一つの料理に使ってしまって、その日のもう一つの調理のための材料がなくなってしまったり・・・。でも、皆さん本当に楽しそうに参加していらっしゃるので、私も一緒に楽しませてもらっています」と話しながらも目は男性生徒たちの手に向いている。材料の選択や予算に気を使いながらも、参加者たちに喜んでもらえることが、清水先生にとっては何よりうれしいと言う。

調理が済むと、エプロン姿のままのメンバーがテーブルに着き、待ちきれないように自分たちの作品に箸を伸ばす。
「やっぱり清水先生が作られた方がおいしい」と言う謙虚なグループもあれば、「私たちが作った方がおいしい」と言う自信満々のグループも。

試食を終わると、参加者はそれぞれ一様に、実習を完遂した満足感を顔一面に漂わせながら、持参した容器に自分たちの作品を家族へのおみやげにと詰めて帰っていった。
日本ではエプロンもかけたことがなかった男性たちが、カナダで集い、調理する楽しさを味わう「男子厨房に入ろう会」。その味付けは、カナダの青空のように、ますます冴えていきそうだ。