ライフ−連載コラム記事
  カナダに集う Hello Canada カナダ横断旅行日記 言葉とKOTOBA

アザラシツアー

バンクーバーを囲む海と入り江は碧(あお)く澄んでいる。 海洋生物も多く、近海にはクジラが見れる場所もあると聞いたが、今回は手軽に行けるアザラシツアーに繰り出した。

早起きして向かったのはバンクーバーのダウンタウンと、入り江を挟んで対岸にあるウエスト・バンクーバーにあるホースシュー・ベイ。ダウンタウンからバスに乗り、原生林が茂るスタンレー・パークを抜け、ウエスト・バンクーバーにつながるライオンズゲート橋を越える時の入り江の美しさ・・・!
波の無い穏やかな水面がきらきらと輝いて、目に痛い程まぶしい。橋を渡り終えると、バスは海岸沿いのマリン・ドライブをゆっくりとひた走る。曲がりくねった山道の所々で、美しい海がふと思い出したようにひょっこりと姿を現す。そしてたどり着いたホースシュー・ベイは素晴らしく素敵な場所だった。
ホースシュー・ベイはフェリーの発着港でもあり、出発を待つ白いフェリーが、海の碧と山肌の緑 に映えて、まるで絵葉書のようだ。こじんまりとしたセンスの良いカフェが立ち並び、海を臨む公園では犬を散歩させる人が目立つ。私が参加するアザラシ・ツアーはここから始まった。

シー・サファリ

SEWELL'S MARINAというのがアザラシ・ツアーを企画しているショップの名前だ。この店はアザラシ・ツアーの他に、クルーザーのレンタルも行っている。今回私が参加するのは「SEWELL'S SEA SAFARI」という、自然とアザラシの見学を目的としたツアーだった。
受付を済ませるとすぐに、上下ツナギの大げさな救命衣を着けさせられて、泳げない私は少し不安になる。そして乗り込んだのは定員十人程のゴムボート。ガイドは笑顔の素敵なジェイムズ。ジェイムズの笑顔と、私の前に乗り込んだかわいらしい少年二人のはしゃぎぶりを見て少しだけ緊張がほぐれた。いよいよ出発だ。

出発して5分。想像していたよりもスリリングだった。エンジン音も高らかに、ゴムボートはジェイムズの鮮やかなハンドル捌(さば)きで水面を跳ねるように走る。最初は余りのスピードに生きた心地もしなかった。しかし少年たちは興奮状態!私はお年を召した方たちの心臓が心配だった。最も心臓に悪かったのは「ドーナツ」とジェイムズが呼ぶもので、これはゴムボートで直径10メートル程の円を描くことを意味する。スピードを落とす事なく急カーブを描くものだから、振り落とされそうで怖い。そんなこともこのツアーの目玉のようだ。
ゴムボートは要所要所で止まり、ジェイムズが大変詳しいガイドを行ってくれる。皆からの質問に何でも答えられるところが見事だ。ホースシュー・ベイを北上する海岸線には、プライベート・ビーチが点在し、ゆったりと時間を過ごす人々が私たちに手を振ってくれた。そして、私たちは大自然の中へと迷い込んで行った。

ハーバー・シールに出逢って

バンクーバーには多くのゴマフ・アザラシが生息している。 出産時期は5〜7月らしいので、私が出逢ったアザラシの多くは産まれてわずか数カ月といったところであったか。
パム・ロックスという岩でできた小さな島に彼らはのんびりと居た。そこは周りには雄大な自然がある野生の動物だけが生息を許されている場所だった。
岩肌の上でごろごろと寝転んでいるアザラシは大変かわいらしかった。ゴムボートのエンジンを止めて、私たちはじっと息をひそめ、目を凝らす。アザラシたちに警戒心は無かった。アザラシは肺呼吸のため息継ぎをしないといけないらしく、時々水面に顔を出す様が愛らしかった。また、聞くところによるとカナダ近海のアザラシたちは、約250キロに及ぶ範囲を移動するらしい。野生に生きるものの力強さを知る思いだ。

約二時間のツアーは、美しい余韻を残して帰路に着いた。 手付かずの大自然の中、無垢(むく)な生き物と出逢い、心も体も洗一日だった。