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夢は普通の家庭を築くこと

滝野由衣(たきのゆい)さん
青森県出身 20歳
Bodwell High School 11学年在籍中

由衣さんの初めての
油絵作品

「人々が優しく親切なこの町と、学校や友達が大好き」と語る滝野由衣さん。2003年9月、由衣さんは、ブリティッシュ・コロンビア州ノース・バンクーバーの私立ボドウェル高等学校に編入した。絵を描くことと勉強が楽しく、特に中学時代に苦手だった英語は現在一番得意な学科だ。読書も大好きで、日本語の本はもちろん、英語の本もよく読む。 学業を着実にこなし、この夏には卒業予定である。語り口の端々に聡明さが窺(うかが)える由衣さんだが、ここまで辿(たど)り着くには、多くの困難があった。

母が望んだインターナショナル・スクール

由衣さんの家庭は母一人子一人のため、母親はつねに仕事で忙しく、中学を卒業するまで祖母に育てられた。その後、母の仕事の都合で青森から東京へ引っ越した。英語や海外に興味がなかった由衣さんだったが、母の希望で、高校は埼玉にあるインターナショナル・スクールに入学した。
留学は母自身の夢だった。母が高校生の頃は、交換留学が盛んになり始めた時代だったが、母の留学への希望は両親の反対にあってかなうことはなかった。それでも独学で英語を勉強し続けた母は、その夢を娘に託した。

入学したインターナショナル・スクールの生徒は日本人ばかりで、授業以外の実生活で英語を使うことがなく、会話力はあまり伸びなかったが、すべての授業を英語で行うため、ヒヤリングはかなり上達した。

家族でイギリスへ移住、苦悩の2年間

インターナショナル・スクールに入学した1年後、再び転機が訪れた。母がイギリス人と再婚したのだ。一家はそれを機にイギリスへ渡った。
初めての海外。華麗なイメージのイギリスで、夢と希望を抱きながら始まった新生活だったが、異国の地で、異文化同士の新家族の生活は、スムーズには行かなかった。
母がストレスで倒れた。知人も縁者もなく、疎外された生活が続いた。人種差別も辛かった。
「今でこそ、ロンドンのどこに日本の書店があるかも知っているが、あの頃は、日本人がどこにいるのかさえわからなかった」由衣さんは、入学する学校を見つけることもできなかった。

母の精神的ストレスによる病は長引いた。由衣さんは自分を押さえ込んで、看病に当たりながら、解決方法を模索した。学校に行けなかったため、友人もできなかった。このような生活が2年経った頃、「このままでは自分もダメになってしまう」と一念発起して、現在、バンクーバーで通っている高校を探し当てた。

「イギリスには良い思い出がまったくない。だから一時期は英語が大嫌いになった」と語る由衣さんだが、それでもイギリスでの時間は、母との絆の強さを実感することができた。今では、「あの頃を経験したから、何事にも負けずに立ち向かえる自分がいる」と言えるほど、由衣さんはバンクーバーで成長した。

感動が多い街

ホストファミリーと。後ろの絵はホストマザー、ダナさんの作品

バンクーバーに来た時も不安がいっぱいだった。知らない国、一人での留学。
友人ができるか、差別はないかという心配に加えて、他の生徒より年上であることも気になった。しかしバンクーバーへ渡ってすぐに、それが杞憂(きゆう)であることがわかった。
「感動が多い。どこでもみんな親切で優しい。食べ物もおいしい。友達もたくさんできた」。
学業については、試験の成績だけで評価される日本と違って、カナダの高校は課題が多く、平素の取り組みが重要視されるため、気が抜けない。大変ではあるものの、自分の身に付く勉強となっていることを由衣さんは実感している。

担任の先生は家庭についての相談にものってくれた。幸い、両親の問題は解決に向かい、母の健康状態も良くなり、2年後には両親もカナダへ移住予定である。
ホスト・ファミリーにも恵まれた。将来由衣さんは絵に関する職業に就きたいと考えているが、偶然にもホストマザーは、地元では著名な画家だったのだ。敷地内には大きなアトリエがあり、由衣さんも自由に使うことができる。また、そこで週に1度、絵画の個人指導を受けているおかげで油絵も好きになった。2人の子供たちとも仲良しで、充実したホームステイ生活を送っている。

出会いと別れの多い学校生活

校友たち

由衣さんが通うボドウェル高校は3学期制で、1月・4月・9月のいつでも入学が可能だ。2学期分の8カ月を履修すれば単位が与えられるため、他の高校に比べ、頑張り次第ではひじょうに短期間で高校卒業資格が取れるのだが、その分、出会いと別れも多い。しかも生徒の大多数は世界20数カ国からの留学生で、卒業後は自国へ戻り、進学する者がほとんどだ。由衣さんも多くの別れを経験した。特に6カ月の寮生活をルームメイトとして共にし、ホームステイ先も一緒だったメキシコ人の友人との別れは一番辛かった。別れた友達とは、今でもメールで連絡を取り合っている。
卒業後は、「母に経済的な負担を掛けぬよう、できれば日本で働きながら学校に通いたい。でも両親の移住を助けるために、カナダに留まろうかと迷っている」と語る由衣さんの将来の夢は、「普通の家庭を作ること」。
母思いの由衣さんは、"普通"に憧(あこが)れる、等身大の少女だった。