ライフ−連載コラム記事
  カナダに住む カナダ横断旅行日記 言葉と Hello Canada

↑モントリオールの建物

前号まで
モントリオールに着いた私たち3人は、ヤンウーの韓国人の女友達2人と合流し、楽しく観光旅行に繰り出すはずだった。しかし、彼女たちは私の理解できない韓国語で話し始めた。

彼女たちの名前は、ユンジーとジーウン。なんとも混乱しやすい名前である。はっきり言って、第一印象は最悪。この旅を思い出深いものにするために、仲良くしようと決めていた私のやる気は一気にそがれた。しかし、1秒も無駄にしてはいられない。気持ちを切り替えて、観光に集中する。

集合写真

モントリオールの旧市街地を見に行く。ここはダウンタウンの東、セントロ−レンス川に沿った地域でモントリオール発祥の地。当時のままの建物や広場が残り、中世ヨーロッパの雰囲気を強く漂わせている。石畳の道、青い空にそびえたつ教会。そこへ自転車に乗った初老の男の人が通りかかった。そして、私たちに「写真を撮ってあげましょうか?」と声をかけてきた。私たちは「なんて良い人なんだ」と思いながらカメラを渡して、最初で最後となった5人の集合写真を撮ってもらった。お礼を言って別れようと思ったら、「他のカメラでも撮ってあげるよ」と言い出したので、「そう言ってくれるのなら」と、私たちはそれぞれのカメラを彼に渡した。そして、再びお礼を言って立ち去ろうと思ったら、その老人は「小銭を持ってないか?」と言い出した。この時になってやっと、彼のねらいが分かった私たちだった。リオがポケットから2ドルコインを取り出して渡す。すると彼は「Thank you. Have a nice day!」と言って自転車に乗って去っていった。彼は服装から判断するに、いわゆるホームレスである。カナダではホームレスがお金を請い求めるということは、バンクーバーでの経験上知っていた。彼らはいつも同じ場所に陣取り、通行人にお金を請う。しかし、自ら話しかけ、何かをしてあげて、その報酬を求めるというやり方はしない。そのため、この出来事は私にとってかなりショックだった。こんなところも西と東では違う。

お昼時になった。旅行中の食事はけっこう意見が分かれてたいへんである。今までは3人で臨機応変に対応してきた。お金と時間を考えてファーストフードを食べたり、しっかりと韓国料理を食べたり。基本的に朝食と昼食は軽く、夕食に重きを置いていた。というのも、観光中の昼間に食事に時間をかけたくないというのが私たち3人の考えだったからだ。しかし、今日合流した彼女たちは昼食を中心に、朝と夜は軽く済ませたいという。最初にこの食事のとり方についてちゃんと話し合いをしなかったのが、後々問題を引き起こすことになったのだが、この時、私たちはそこまで考えておらず、この日はとりあえず安くて早いピザを食べることにした。しかし、ここで早速問題発生。ユンジーが「気分がすぐれないから食べたくない」と言い出した。仕方なく、彼女を車に残して4人でピザショップに入った。

ノートルダム大聖堂

観光再開。ノートルダム大聖堂を見学。カトリックの教会としては北米で最大規模のもので、内部の豪華な装飾とステンドグラス、パイプオルガンはかなり見応えがあった。ダウンタウンに戻ってみると、大勢の人が同じ方向に歩いて向かっている。その先には「ジャズフェステバル」の看板が。一見の価値があるだろうということで、のぞいてみることにしたのだが、今度はジーウンが「気分がすぐれない」と言い出し、車に残ると言う。そのため4人でジャズ会場に向かった。

夕食の時間。昼食を軽く済ませたので、レストランに行くことにした。このあたりから徐々に韓国色が濃くなっていった。モントリオールに来ても行くのは韓国料理屋。そして、ピザを食べなかったユンジーはまだ体調が悪いらしく、再び車内で待つ。

その夜、この旅でまだ一度も見たことのない夜景を見に行く。大陸横断中は夜景が見られる場所などなかった。今はカナダ第3の都市、人口350万人以上のモントリオールに来ているのだ。宿泊先のINNのスタッフに夜景スポットを教えてもらう。ここでもまたユンジーとジーウンが行かないと言い出した。かなり疲れているらしい。私は彼女たちが来ないことにほっとした。もう3人だけで行動できると思っていなかったのと、全く理解のできない韓国語からしばらく解放されるということで、久しぶりにくつろげる。

3人だけになった車内で、私はヤンウーとリオに私の抱えているストレスを伝えた。常に彼女たち2人は韓国語を話すし、旅行を楽しもうという努力をしているようには見えない。ヤンウーとリオもそう感じていた。ヤンウーの場合は私とリオが抱える問題より、もっと複雑だった。彼は私たち2人とも、彼女たち2人とも友人関係にある。そのため、なんとか仲を取り持とうと必死だった。

合流初日にこんなことであと1週間一緒に旅を続けることができるのだろうか。それぞれの胸のうちに不安を抱えながら眠りに着いた。(続く)