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侍に扮して俳優の顔となる

夢を貫き映画監督になった
TOMOさん

唯一の日本人監督として活躍

バンクーバー・フィルム・スクールに留学していた当時から、バンクーバーのマスコミを賑わしていたTomoさん。「映画監督になりたい」というその奮闘振りは、自身が発行するメールマガジンやウェブサイト、地元情報誌へのコラム連載などで人々へ伝えられてきた。皆の期待を裏切ることなく成長中のTomoさんは、映画祭などで作品が評価され、去る７月には映像制作会社「Kundalini Productions」を立ち上げた。個人の思い出作りのための短編ドキュメンタリー映画や、写真を組み立てたスライドショー風な作品を制作したり、TVコマーシャル、音楽プロモーション・ビデオまで手掛ける会社だ。「2年半映像を勉強してきて、やっと人に作ってあげられる自信がついた」と語るTomoさんは、現在、長編映画も製作するバンクーバーで唯一の日本人映画監督である。

映画祭とテレビで上映された初作品

ショート・ショート・フィルムフェスティバルの授章式にて

映像の基礎を学ぶために1年間入学したバンクーバー・フィルム・スクールの卒業制作では、10分間の短編を仕上げた。1970年代の南米を舞台にした、政治的要素の強いラブストーリー「Before, After」である。その作品が、日本でも権威のある「ショート・ショート・フィルムフェスティバル」で撮影賞を、フジテレビの「ショート・ショート製作部」という番組では歴代5位の好成績を収めた。以降、「自分で作ることが1番の勉強」という信条の下、短編をいくつも仕上げ、同時に長編の脚本も書き進めた。「周りに恵まれている」と語るTomoさんだが、制作活動資金もすべてスポンサーによって賄われており、その期待度がうかがわれる。演技の勉強も始め、俳優として侍役で主演も果たした。18歳から紆余曲折した人生を送ってきたTomoさんは、着実に夢を手にしつつある。

仲間であるスタッフたちと

一度は夢を諦め現実を選んだが

映画監督になりたいと思ったのは、浪人時代に観た「7月4日に生まれて」の主役、トム・クルーズの映画に対する情熱に感銘を受けた時だ。大学では法律を専攻し、卒業後はコンピューター関係の会社に就職。監督は諦め、映画会社を経営しようとMBA取得の準備を始めていたのだが、その矢先に観た映画、「ファイト・クラブ」のワンシーンがTomoさんを変えた。
ブラッド・ピッド扮する強盗が、コンビニの店員に銃を突きつけ「お前は本当は何になりたかったのか」と問い、店員は「獣医になりたかったが勇気がなかった」と答えた。「明日から獣医を目指すのならお前を殺さない」という強盗の台詞に、Tomoさんはまるで自分が銃を突きつけられているように感じたという。その後、片っ端から映画を鑑賞、映画製作の基礎コースを受講したり、短編を製作したりと試行錯誤し、最終的にバンクーバー・フィルム・スクールへの留学を決めた。29歳、日本に新婚の妻を残したままの旅立ちであった。

↑監督中のTomoさん

↓Tomoさんの作風はテンポが良くてコミカル、そして魅せる映像が美しい。ロバート・ロドリゲスやタランティーノを髣髴させる、小気味良い娯楽作品である。

多国籍国家でマルチカルチャー映画を

制作におけるパートナーは大勢いる。皆、Tomoさんの才能に惚れ込んだ人ばかり。国籍は雑多だ。共通語は英語だが、作品中には各国の言葉が登場する。現在製作中のアクション映画は、日本語や広東語、ドイツ語、フランス語のシーンが織り込まれているという。
脚本は英語で書いてゆく。各国語の部分はそれぞれのバイリンガルの仲間に託す。 英語は堪能ではあるが、やはりTomoさんにとって英語は第二言語だ。「カナダで僕ができることには限界がある。それを理解したうえで活動している」と、現実を見つめる。外国語で映画を製作する苦労は、想像に難くない。それでもカナダでの制作にこだわるのは、マルチカルチャーな芸術娯楽作品を作りたいからだ。大学在学中より世界中を旅して培った思いがある。多国籍文化であるバンクーバーの映画学校を選んだ原点もそこにあるのだ。

目指せ"世界のトモ"

Tomoさんの作品は、すでに日本・アメリカ・カナダの3つの映画配給会社から、配給権（上映する権利）とリメイク権（映画を製作し直す権利）を打診されている。
「寂しさを強いている妻を幸せにしなければ」「将来を案じる義母も安心させたい」という強い思いももっている。
良い仲間たちと後援者を従え、充分なカリスマ性も携えたTomoさんが、"世界のクロサワ"ならぬ"世界のトモ"となる日もそう遠くはないかもしれない。