ライフ−連載コラム記事
  カナダに住む カナダ横断旅行日記 言葉と Hello Canada

前号まで
トロントから車を走らせ、私たちはナイアガラの滝に到着。世界最大の滝を目の前に、私たちは興奮を抑えられなかった。

さっそく私たちは車を止めて滝の近くに歩み寄った。私が今まで見たことがある滝とはかなり様子が違う。ナイアガラの滝は、5大湖のうちのエリー湖からオンタリオ湖に流れるナイアガラ川の途中にある。エリー湖は琵琶湖の約38倍、オンタリオ湖は約29倍。その二つをつなぐ川にある滝で、日本の基準からは計り知れないスケールだ。私たちは川沿いの遊歩道から滝を見下ろした。今にも吸い込まれそうな莫大なエネルギーを感じた。

私たちはこの壮大な滝をもっと間近から見るため、メイド・オブ・ザ・ミスト(霧の乙女号)に乗ることにした。小型の船でアメリカ滝の目前を横切り、カナダ滝に向かうというものである。配られたブルーのレインコートを着用し、私は真っ先に船の先端に向かった。せっかくだから、一番前で味わいたい。初めは写真を撮る余裕もあり、何回もデジカメのシャッターを押していた。しかし、だんだん滝に近づくにつれて、響く水音と水しぶきが激しさを増してきた。さらに、水が落ちる時に生じる強風で水しぶきが容赦なく船めがけて飛んでくるようになると、写真を取るどころではなくなった。レインコートなんてあって無いようなものだ。台風の暴風域のような状況。びしょ濡れになりながら、まさに大自然を体感した。

時刻は午後7時を回り、暗くなり始めていた。全員お腹がすいたということで意見が一致し、レストランで夕食をとることにした。これは5人での旅が始まって以来、初の全員そろっての夕食である。ヤンウーの夢が叶った瞬間だった。終始和やかな雰囲気で私たちは料理を満喫した。大自然の驚異であるナイアガラの滝の前では、私たちの確執など取るに足らない。夕食後、所狭しと並んでいる土産物屋を見て回った。リオはもうすぐ帰国することもあり、両手に抱えきれないほどのお土産を買っていた。

大陸横断14日目。7月14日、晴れ。
今日はいよいよカナダに別れを告げ、飛行機で世界一の大都市ニューヨークに飛び立つ。しかし、朝からトラブル続き。時間があればトロント市内を観光してから空港に行く予定だったが、観光どころか飛行機の出発時間に間に合うのが精一杯だった。なんとかピアソン国際空港についてチェックインも済まし、搭乗案内を待っていたら、電光掲示板に「delayed」の文字が出た。続いて場内アナウンスで、ニューヨーク空港上空の雷雨のため空港が封鎖され先行の飛行機が着陸できないとのこと。悪天候ではどうすることもできない。ところが、これは私たちの悪夢の序章にすぎなかった。

私たちのフライトは本来なら14時15分発。当初は1、2時間の遅れだろうと踏んでいた。持参したトランプで時間をつぶしたが、私たちの飛行機だけではなく、ニューヨーク行きの飛行機すべてに遅れが出ているため、事態はもっと深刻だった。カウンターには足止めを食った客がスタッフに詰め寄っている。私たちのなかからもジーウンがスタッフに噛み付いた。客には昼食のチケットが配られたが、ジーウンはそれでもまだ腹の虫が治まらない様子。ユンジーはジーウンに相槌を打っている。
ここで、ヤンウーとリオと私は発想の転換をすることにした。カナダを横断している間に培った考え方だ。「道に迷って時間を無駄にした」と考えるのではなく、「道に迷ったことでより多くの景色を見ることができた」と考えるのだ。今回は、その「できた」時間でトランプに集中することにした。始めは渋っていたユンジーとジーウンも加わって、5人でかなりの時間ゲームに熱中した。

ようやく、飛行機のフライト時間が発表された。時刻は21時30分。結局約7時間、空港で過ごした計算になる。本来なら明るいうちにニューヨークに着き観光する予定だった。しかし、実際に着いたのは23時。幸い、宿はヤンウーが事前にインターネットで予約してくれていたので、そこに向かうのみ。私たちは疲れきった体に鞭を打ち、最後の力を振り絞って住所を頼りに宿へ向かった。しかし、私たちの悪夢第二章がすでに始まっていることに、この時点では誰も気づいていなかった。(続く)