ライフ - 連載コラム記事

バンクーバーにウエストエンドと呼ばれる地域がある。 街の中心地から徒歩で行けるコミュニティーで、ヘリテージハウスと一緒に中層から高層のアパートが立ち並び、学校、公園、海岸、各種レストランやトレンドショップなどが集まったユニークなエリアだ。また、北米の大都市と比べてもひじょうに人口密度が高く、どこに行っても広々としたバンクーバーのなかで、ここだけはいつでも人が多く活気にあふれている。


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空から見たウェストエンド

ウエストエンドは、外国や他のカナダの地域からバンクーバーに移ってきた人が最初に落ち着く場所としても人気がある。特に、学生やオフィスワーカーなどのニューカマーには最適だ。車社会の北米で、エンターテイメントやショッピングを含め、生活に必要なものがすべて近所で手に入り、しかも歩いて職場に通える場所はそう多くはないだろう。



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ロブソン・ストリートのレストランで見かけたシニアカップル

 

ウエストエンドは、12ブロック×10ブロックの広い地域だが、海岸や公園に近くなるほど落ち着きが増し、住人の年齢層が高くなる。子供のいないシニアカップルや一人暮らしの高齢者にとっても、ウエストエンドはかけがえのないコミュニティーになっているのだ。5年ほど前の調査によれば、ウエストエンドの人口4万2120人のうち、31.5%は40〜65歳で、51%が20〜40歳代となっている。



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ヘリテージビルを改築したアパート

こうした人々に加え、最近はスタイリッシュなライフスタイルを求めて住み着いたり、セカンドハウスとしてアパートを購入する富裕な層も増えている。新しい高層アパート(日本のマンションに相当)の大半が高級分譲アパートで、数億円の1LDKもざらではない。




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さて、150年ほど前まではバンクーバーの中心地もそうであったように、ウエストエンドも森林に覆われていた。1862年に3人のイギリス人がレンガ工場を作る目的で現在のウエストエンドにあたる一帯を買ったが、レンガを運ぶための交通手段を確保することが難しくて失敗。ビクトリアの投資家に売り渡してしまった。この投資家は、「ニュー・リバプール」という名前をつけてこの一帯の不動産開発を計画したが、これも失敗に終わっている。


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カナダ横断鉄道完成記念式(1885年11月7日。ドナルド・スミスCPRディレクター)

ウエストエンドが開発され始めたのは、1885年にカナダ国営鉄道(CPR)がカナダ横断鉄道を完成し、バンクーバーのウォーターフロントに駅ターミナルが建設されてからだ。これを機会に、ウエストエンドに鉄道関係の幹部らが住む豪華な家が開発され、バンクーバー初の高級住宅地となった。 その後、バンクーバーが急速に発展するなかで、新たな高級住宅地が市外地に生まれ、ウエストエンドはイギリスからの移住者が住む中流クラスの住宅地になっていった。



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ヘリテージハウス

 

第二次大戦後、多くのドイツ人移住者がウエストエンドに住み着き、レストランをはじめ、カラフルなショップが並ぶロブソンストラッセ(Robsonstrasse)と呼ばれる一角を作った。現在のロブソン・ストリートがその跡地で、今はもうドイツのイメージは消え去ってはいるものの、バンクーバーを代表するファッション街となり、若者層や観光客でにぎわっている。


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ヘリテージハウス

ウエストエンドを歩くなら、このロブソン・ストリートから始めると良いだろう。ロブソン・ストリートをスタンレー・パークに向かって西に歩くと、世界で最も混み合っていると言われるスターバックスや(道を挟んでスターバックスが2軒ある)、ウエストコーストの最新ファッションを集めたブティック群、各国のレストランなどが続いている。ロブソン・ストリートの西端まで来たら、デンマン・ストリートを左折して海岸方向に。ここまで来ると観光客を見ることはまれで、地元の住民と肩を並べて道の両側にぎっしりと並んでいるショップを眺めながら歩けば、ウエストエンドのライフスタイルが肌で感じられるだろう。

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デンマン・ストリートのコーヒーショップ

 

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イングリッシュベイビーチとその向こうに見えるスタンレーパーク

デンマン・ストリートを10分も歩くと、イングリッシュベイ・ビーチと呼ばれる海岸に出る。砂浜にゴミはなく、夏でも特別なイベントがない限り混み合うようなことはない。デンマン・ストリートが海岸とぶつかった地点から西を眺めれば、青々とした森が茂るスタンレーパークが数百メートルの向こうに見える。海岸に沿って清潔な中高層のアパートが並ぶ風景は、世界を代表する他のリゾート地と比べてなんら遜色のないものだ。


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海岸に沿って並ぶアパート群

 

公園や海岸があり、生活に必要な施設やショップがすべてそろい、ダウンタウンの中心地まで歩いて行けるウエストエンド。これほど贅沢な条件をそろえていながら、学生や若いオフィスワーカーにも手の届くアパート群が並んでいる所は、世界にもそう多くはないのではないだろうか。