ライフ - 連載コラム記事
カナダに住む(Live in Canada)

フリーランスライター/愛知県春日井市出身・44歳

椙村邦子(すぎむら・くにこ)さん

転機を重ねて辿り着いた第二の故郷

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日本国内で語学留学!?

 英語を学ぶ方法はいろいろあるが、日本国内でホームステイというのは稀有なケースといえる。カナダ・バンクーバー郊外に居住して13年の椙村邦子さんの出発点は、まさにその駅前留学ならぬ、国内留学。愛知県内の高校を卒業後、都内に駐在していたアメリカ人一家の元へ、住み込みのナニー(子守兼家政婦)として約2年、働いた。中学生の頃から英語に興味があった椙村さんは、「高校を出たら海外に行きたい」と希望していたのだが、当時は現在のような留学に関する情報は乏しく、また留学センターなどのサポート機関がほとんどなかった時代。そんな時、『ジャパンタイムス』のクラシファイド欄の求人募集に目が留まった。それは、日本に駐在する米国人家庭で住み込みのお手伝いをする仕事だった。

三食付き、給与支給の高待遇

 日本国内とは思えぬ環境で始まったホームステイ生活は快適だった。仕事は簡単な家事と、当時プリスクールとキンダーへ通う子供たちの子守。食事付きの住み込みで充分な給与も支給されたうえ、家族でのイベントに参加したり、旅行にも連れて行ってくれるという高待遇を受けた。そして、ホストペアレンツの薦めで、2年目からは通訳養成学校と音楽学校に通うようになった。椙村さんは楽しい時を過ごし、日常会話に不自由しない英語力も身に付けた。

歌手と貿易事務、二足のわらじ

 ホームステイを終了した後は、六本木のライブハウスで専属バンドのボーカリストとしてプロデビューを果たした。また有名歌手のコーラスやCMソングなどもこなし、仕事の幅も徐々に広がっていった。そんな折、事務所の社長の紹介で貿易会社の事務を手伝うことになった。英語力が買われたのだ。二足のわらじを履いての多忙な合間に、今度は大好きなスキーを極めたくて、2シーズン半年にわたり長野の山に籠もったりもした。長野ではスキーのインストラクターとして働き、その仲間に誘われてウイスラーを訪れ、カナダの自然のスケールの大きさと人の温かさに感銘を受けた。

憧れの地、カナダへ

 歌の仕事も充分やったとの思いから、椙村さんは一転して堅い職業に就きたくなった。今度も英語力と貿易事務の経験が買われ、大手商社の派遣社員として勤務した。社交性と英語力を見込まれ、一般事務以外にも外国人客の通訳兼ガイドにも度々起用され、相撲を観たり高級料亭に行ったりと、貴重な体験を重ねた。3年後、楽しい商社OL生活に終止符を打ち、知人を通じて知り合い遠距離交際を続けていたカナダ人と結婚、バンクーバーへ渡った。英語に不自由のなかった椙村さんは、高級ブランドショップに勤めた。カナダでの生活になれた頃、長男を妊娠して退職、専業主婦となった。次男が幼稚園に入園した2002年を機に、社会復帰を目指した。

公私の転機で広がった視野

 6年間家庭にいたギャップを埋めるため、「社会のリサーチができる職業を」と、地元日本語情報紙のライターへ応募した。英語での取材も多く、初めは苦労も多かったが、主婦ならではの情報網とリサーチ力を買われ、間もなく企画にも携わるようになった。そして人脈も広がり、度胸や英語への自信も付いた。それから1年後、椙村さんは夫と離婚することになった。予期せぬ新たな転機を迎えたが、幸いその頃には各方面から仕事が舞い込むようになり、生活の目処は立った。
また、仕事で得た知識や人脈から離婚の手続きや養育費の調停なども、慌てることなく進める事が出来た。

充実した日系社会をつくりたい!

 「両親は日本へ戻ってこいとは言いません」日本へ帰国という選択肢は最初からなかった。また、離婚後も別れた夫の兄弟は全て、椙村さん側についている。姓もそのままだ。
親戚達とは月に1、2回はBBQやパーティーを介して会い「義姉には自分の親以上に、何でも話せる」というほど信頼している。海外で暮らし、離婚という困難を乗り越えられたのも、そんなカナダのファミリーがいてくれたおかげだ。しかし、その一方で孤独感に悩まされている日本人女性がバンクーバーに多いことも知った。特に離婚問題やシングルマザーをはじめとする家庭問題は、海外だからこそ、日本人同士のサポートが必要だと考える。
 「いくら英語が話せても、日本人には日本語で話せるカウンセリングが必要」
ただ、今は自分の子育てで精一杯なのが現状。いつか、自分が受けた『人の温かさ』を返したいと願う。子供たちの手が離れたら、学校へ行きカウンセリングを学ぶつもりだ。
 幾つになっても、学んだり夢や希望をもてるのがカナダのいいところ。
椙村さんのカナダでのチャレンジはまだまだ続く。

【写真】(上から順に) 
 椙村邦子さん
 長男(右から2番目)と次男(左端)、カナダの甥と姪
 子どもたちとクリスマスに

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