思ったことが実現しやすく、 何かを一から始めることができる国
「自然が大好き、アウトドアが大好き」、きっかけは2人のそんな思いから。 移住前、直樹さんはシステム・エンジニアとしてコンピューター会社で働いていた。仕事柄、業務時間は不規則で長期休暇も取りづらいうえ、通勤に2時間、夕食が夜中になることも常だった。香利さんは教育系出版社に勤務し、通信教育の高校国語と小論文を担当していた。1995年に長男の大地(だいち)君を出産し、1年半後に職場復帰。しかし、ゆったりとした環境と美しい自然のなかで生活を営みたいという理想と、東京での多忙な実生活の狭間で、平野夫妻はいつしか北海道に帰ることを検討し始めていた。そんな時、直樹さんのお父さんの「日本で暮らす以外にも選択肢があるのでは」という言葉で視界が開けた。夫妻は情報を収集して熟考した末、海外移住を決心した。移住先には治安が良く、仕事が見つかりやすく、アウトドアが楽しめる国、カナダを選んだ。
平野夫妻は移住の準備を進め、家財道具を売り払い、1999年にトロントで新生活をスタートさせた。当初はシステム・エンジニアの職を探す予定だった直樹さんは、大きく方向転換。子供の頃から思い焦がれてやまなかった夢であり、日本では視力がネックとなってあきらめていたパイロットの道にチャレンジしたのだ。カナダでは矯正視力が良ければ飛行機免許の取得が可能とあり、飛行機の知識ならすでにみっちりと頭に入っていた直樹さんは、フライト・トレーニングを開始した。香利さんは教師の職を見つけ、子育ての傍らトロント補習校で日本人高校生に国語と小論文を教えた。2001年には次男の堅志(けんじ)君が誕生した。 2002年、直樹さんは晴れて自家用・事業用飛行機免許を取得し、さらに講師用の免許も取得して、ブリティッシュ・コロンビア州にある航空会社のインストラクターとして働くことになった。
カナダへの移住を機に、子供の頃からの夢が叶った直樹さんと、スーパーナチュラルな潜在能力を開花させつつある香利さん。2人はカナダについて、「思ったことが実現しやすく、何かを一から始めることができる国」、と口をそろえる。日本でなら周りの目や制限があり壁にぶつかるような状況でも、カナダでは他人に迷惑をかけなければ干渉されることなく、行動に移すことができる。例えばパイロットを目指すなら、自家用免許の取得から始め、自分で費用を捻出しながら訓練や経験を積み、最終的に国際線のパイロットになることも可能なカナダでは、新卒で航空会社に就職しなければパイロットへの道は困難な日本と比べ、大きく門戸が開かれているのだ。 直樹さんは、これからも空から四季折々の美しい地上を見続けたいと言う。受講生が自分で飛行機を飛ばし、これまでとは全く違う視点で世界を見ることは、人生の転機にさえなり得る。そんな新しい世界の案内が多くの人にできれば、と語る。香利さんは、カナダの人々との交流のなかで、気持ちがわくわくしたり、胸の奥が熱くなったり、大事なことに気づくことがぐんと増えたと言う。「色々な刺激を受けながら、その時々に自分が楽しく思えることを枠にとらわれずにどんどん外へ出していきたい。その結果として周りの人が生き生きとして、ここがより笑顔に満ちあふれた場所となっていけばうれしいですね」と香利さんは目を輝かせる。 |