ライフ−連載コラム記事
  カナダに住む ことばと ワーホリ追跡日記 Hello, Canada

竹内英理奈(たけうちえりな)
三重県出身。1976年生まれ。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒。高校で英語教師を務めた後、2004年4月に来加。現在、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーのサイモン・フレーザー大学(SFU)で通訳養成講座受講中。趣味は休日の散策。ストレス解消法はとにかく体を動かすこと。

現在の日本は第3次英語ブームの只中(ただなか)にあるという人がいる。
確かに、英語に対する熱意は強く、数え切れないほどの英語教材があふれ、英語に関する本がベストセラーになっている。英会話学校も相変わらずの盛況ぶりだ。「プチ留学」、「駅前留学」、「キャリア留学」など、「○○留学」という言葉もよく耳にする。文部科学省は小学生からの英語学習導入に大変意欲的である。英語と日本語の両方を公用語にすればよいなどという極端な意見も出ているほどだ。

留学したい!

英語を使いこなせるようになりたいと多くの人が望んでいる。留学する人も年々増加する一方だ。私もその一人である。学生時代から留学したいという想いは常に心の片隅にあり、ついに今年4月、憧れのカナダの地を踏んだ。カナダを留学先として選んだ理由の一つは、カナダの学校は質の良い教育を行うことで定評があるからだ。サイモン・フレイザー大学の通訳養成プログラムを選んだのは、自分に高い目標を課して徹底的に勉強するためだった。願書と必要書類を提出し、電話で試験を受けることになったのだが、その時のことは今でも忘れられない。手がふるえるように緊張したが、電話から聞こえてきた日本人主任教授の完璧な英語を聞いて、私の心は高揚していた。
「少しでも近づきたい」
そんな思いを胸にバンクーバーにやって来たわけである。慣れない異国での生活に悪戦苦闘しながら、5ヵ月後に本格的に始まる通訳者養成上級講座を受けるため、基礎通訳講座からスタートした。

通訳・翻訳の勉強を通じ、言葉に対する意識は以前にも増して高まった。言葉の響き、語感、語法やその由来等、言葉を扱うことに対する真摯(しんし)な態度なくしてエキスパートにはなれない。さらに文化や歴史、政治経済、スポーツ等あらゆる分野に興味や関心をもつことも不可欠だ。モザイク都市として有名なバンクーバーは多様な価値観が交錯する街でもある。情報のアンテナを精一杯広げて、多文化が共生する街の大いなる刺激を受けながら、新鮮な驚きを綴(つづ)っていきたい。

「Continuing Education 」って?

カナダで感心したことの一つに教育環境がある。広範囲でバラエティに富んだ教育環境だ。よく目にするのが「Continuing Education」という言葉。継続教育と訳されるが、日本では生涯学習(Life-long education)という言葉のほうが広く行きわたっている。しかし、カナダの「Continuing Education」は日本でいうところの生涯学習とは異なり、規模といい、内容の充実度といい、多くの人のニーズに応えられる点で優れている。カナダが生涯教育における先進国であることも容易にうなずける。

日本で生涯学習ときくと、経済的、時間的余裕のある人が趣味の延長として、また退職された方々が再度勉学に励むという響きがあるが、ここカナダでは大学修了者課程であったり、仕事に直結する技能を得るための実務演習コースであったり、地域社会に根付いた趣味・娯楽のコースであったりと多岐にわたっている。
しかも「Continuing Education」は、大学施設、地元の中学、高校、あるいは近くのコミュミニティー・センターで実施されており、授業料も一部のコースを除き比較的安めに設定されている。さらに、年配の方々のための割引制度もある。教育を受けたい人々が感じるバリアをことごとく取り払い、多くの人に門を開いているのがカナダの「Continuing Education」なのだ。

さて私自身も、近くのコミュニティ・センターや図書館等で手に入る小冊子を見て、クラスのスケジュールや内容、講師等の情報をチェックしている。フランス語、イタリア語、中国語等、人気の語学コースをはじめ、情報処理、各国の料理、楽器の演奏、さらには民族舞踊、バスケットやサッカーなどのコースもある。近くのコミュニティ・センターのクラスに参加することで、地域の人と知り合うこともできる。しかもクラスの内容によっては年齢もバックグラウンドも何もかもが異なる人々と話ができるのだ。普段の生活ではなかなかこのような機会には恵まれない。私はカナダに来た直後の3ヶ月間、週2回のペースで、大学での授業の後、英会話の「Continuing Education」コースをとっていたが、クラスメートは80代のおじいさん、大学院で研究をしている留学生、優雅なご婦人など、実に様々な人々だった。彼らと話す機会を得たことで、本当に様々な人生観に触れることができたと思う。

ところで、「Continuing  Education」 の本来の意義とは何だろう。
私がカナダで通訳・翻訳の勉強を本格的に始めて痛感したのは、勉強に終わりはないということだった。一つの道を極めるというのは実際気の遠くなるような道のりである。そもそも学ぶということは、試験に受かるためだけに行う行為ではないはずだ。重要なのは、「学ぶことに喜びを感じていますか?」「いつまでも学びたいと思いますか?」という問いである。カナダが生涯教育の先進国といわれる所以(ゆえん)は、まず人々の学びへの意欲的な姿勢があり、それを環境がサポートしている点にあるのかもしれない。

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