ライフ−連載コラム記事
  カナダに住む ことばと ワーホリ追跡日記 Hello, Canada

明るく元気な校長先生
中元優子(なかもとゆうこ)さん
大阪出身。ブリティッシュ・コロンビア州リッチモンド在住

2年前にマラソン大会に参加。それ以来ランニングも再開した。

バンクーバーの隣町リッチモンド市スティーブストン地区は、古くから日本からの移住者が住み着いた港町。1911年、この港町に、日系人移住者の子供たちの日本語教育を目的にスティーブストン日本語学校が建てられた。
今年7月、この歴史的な学校の学校長に着任した中元優子さんは、全身から陽気さのあふれる笑顔の素敵な女性だ。

自宅のパーティーでご主人のハリーさんと。

中元さんがカナダを初めて訪れたのは1991年。ワーキングホリデー・ビザでカナダに滞在中、勤務先の旅行会社でご主人のハリーさんと出会った。3年後にはカナダと日本で挙式を行い、カナダでの二人の暮らしを開始。日本で幼稚園の先生をしていた中元さんは、スティーブストン日本語学校で募集していた幼稚園の教員に応募し、カナダでの教員生活を始めた。

「起立、礼、着席」という掛け声でざわめきも収まり、日本語学校のクラスが始まる。現在生徒の6割は家庭で主に英語を話し、残りは主に日本語を話している。低学年ではそうした環境別にクラスを分けて授業の進度に配慮をしているが、週1、2回の学習だけで日本語を習得することはたやすくない。
だが、中元さんは、子供たちの無限の可能性を実感することもしばしばだ。日頃中元さんは子供たちに五十音の書き方の指導で、きれいな文字とわざと崩れた文字を書いて、「これは上手、これはダメヨ」と教えていた。ある授業時間に、普段英語しか話さない子供がいたずらをしている子供に向かって「○○君、ダメヨ」と話しているのを耳にした。子供たちは授業で中元さんが使う何気ない表現も自然に吸収しているのである。

スティーブストン日本語学校のお正月。

中元さんは子供たちが授業に集中できるようにと、学習にゲーム的な要素を取り入れている。幼稚園のクラスでは歌や遊びのほかに、一人の生徒が先生役をする「先生ごっこ」が子供たちに好評だ。なかには先生役をしたがらない子供もいるが、中元さんは無理強いはせず、子供たちの意志に任せていた。
ある時、一人の控えめな子供の母親が、中元さんにこう言った。
「うちでは子供が先生になって、わたしが生徒役をさせられているんです」。
学校で行ったことが見えないところで効果を上げていることを知るような時、中元さんは子供の教育にかかわっている喜びを改めて感じる。
学校では正月の凧揚げや書初め、節句のお祝いなど、日本の伝統文化や習慣を伝える行事活動も盛んだ。こうした機会があるごとに、中元さんは生徒に生け花を指導したり、お茶をたてる様子を見せるなどして、日本の文化を伝えるよう心がけている。

自宅で愛犬のナナちゃんと。

中元さんは犬が大好きで、ナナちゃんと名づけたラブラドール種を飼っている。
犬を飼う身でカナダに暮らしていてありがたいと思うことは、早朝や夕方など時間によっては、犬のリーシュ(ヒモ)を解放しても良い公園や海岸があることだ。そのため、愛犬を思う存分走らせたり、海で泳がせたりすることもできる。
ある日、愛犬のナナちゃんとの早朝の散歩中に、中元さんはナナちゃんに良く似た犬を連れているカナダ人女性に出合った。話をしてみると、その犬は同じブリーダーから買った兄弟犬であることがわかった。以来、その女性とはすっかり意気投合して、今では親友的存在となった。そして彼女との毎朝1時間の散歩は中元さんの英語のレッスンともなっている。

つねに何かをしていることの好きな中元さんは、毎日スケジュールがいっぱいつまっている。生け花の教室通いに、手先の器用さを生かして自宅でのキルト作り。「ハーガンダー・ステッチング」というヨーロッパの刺繍も習っている。その先生は今年90歳になる女性でお菓子作りも得意。教室のある日には、その日に出されるお菓子も楽しみの一つだ。習い事では他にヨガやタップダンスも始めている。そのほか、学生時代にセミプロの腕前だったドラムも続けており、時々ご主人のギターと一緒に合わせて演奏している。

日本の実家に帰省すると、家族はこんな活動的な中元さんを見て、少し落ち着いて行動するようにと書道を勧めた。しかし、半紙に3枚ほど書いているうちに、中元さんの頭の中にはあれもしたいこれもしたいという思いがよぎってしまう。静かに筆を動かすより、体を動かすことが好きなのだ。
快活な中元さんにも気持ちが落ち込むことはある。そんな時は、おいしいものを食べて、話をしていれば元気になってしまう。おいしいものの食べ歩きも欠かせない趣味で、バンクーバー近郊のおいしい料理店の情報はしっかり把握している。

「まずは行動」という姿勢で、エネルギーに満ちた中元さん。学校長の大役を任されたことも、学校を推進するエネルギーが十二分にあると、周囲に認められてのことだろう。
「長い歴史をもつ学校を引き継ぐことに責任を感じながら、しっかりと次代に継承していきたい。個人的には楽しく明るく元気にやっていきたい」と語る中元さんの子供のような澄んだ瞳が光った。

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