児玉由紀さんは銀行に勤める父の転勤に従い、2002年1月、2歳年上の兄と母と共に神奈川県横浜市からバンクーバーに引っ越してきた。父の海外勤務はこれが初めてではない。由紀さんも兄も、父の赴任先だったイギリス・ロンドン生まれだ。ロンドンでの駐在生活は6年に及んだが、家族は由紀さんがまだ赤ん坊の頃に日本へ帰国、その後はずっと横浜で過ごした。明るく活発な由紀さんは友人も多く、学校の委員会活動も積極的に参加するなど、学校が大好きだった。 ESLが充実した私立校へ入学 それまで由紀さんは英会話教室や英語塾に通ったこともなく、また、出発までの準備期間が2ヵ月と短かったため、英語に関しては全く白紙の状態での渡加となった。そんなせわしない状況だったが、海外旅行を経験している由紀さんは、「長い旅行に出るようなもの」と前向きに受け止めた。しかし、旅立ちの日はさすがに寂しく、複雑な心境は否めなかった。 渡加後4ヵ月余は公立の小学校に在籍したが、ハイスクール(注:カナダのハイスクールは中学と高校が一緒になっている)はいろいろな人の意見を参考に、私立校を選択した。入学したSt.John's Schoolは1学年1クラスと小規模であるため、ESL生徒への指導も細部まで行き届いている。兄も同じ学校だったが、それでも初めて登校した日は、「思い出したくないほど緊張した」。先生の言っていることはわからず、とにかくみんなについて回った。 英語力ゼロ、日本人皆無の環境を経て 最初に入った小学校には、由紀さんの他は1人も日本人がいなかったが、先生も生徒もとても親切で、ゼロからスタートした英語も、1年ほどで周囲の話すことをほぼ理解できるようになった。ハイスクールでも、やはり日本人は皆無。留学生もいない。
小学生だった由紀さんも、今年9月から11年生(高2)に進級した。カナダの高校では、11年生になると選択科目が多くある。理数系が得意な由紀さんは、必須である国語(英語)や社会の他に、選択科目である数学・化学・物理などをとっている。 勉強は大変でも補習校は息抜きの場
毎週土曜日には、日本人補習校での授業がびっしりとある。主に駐在子弟を対象とした学校で、地元のハイスクールの校舎を借り、日本の教科書を使って国語と数学を学んでいる。「帰国後、授業についていけるように」と、日本企業の現地法人など数十社によって共同運営されており、幼稚園から高校3年まで百数十人の生徒が学んでいる。由紀さんはこの補習校で同じ境遇の仲間と励まし合い、時には弱音を吐いたり愚痴を言ったりして心のバランスをとってきた。皆、親の滞在期間が終了すると帰国するため、出会いと別れが頻繁にやってくる。宿題もたくさんあるため、一般の高校留学生よりも倍以上勉強しなくてはならないが、それでも補習校は由紀さんにとって息抜きの場となっている。1学期末に行われた補習校の運動会では、実行委員も務めた。 父はシアトルへ、兄は日本へ 児玉家は「家族の仲がすごく良い」。 こうして、家族そろっての生活を送っていたが、1年ほど前に父は再び転勤となり、アメリカ・シアトルへ移動してしまった。車で2時間余の距離なので、今度は単身赴任。そしてさらに今年、日本の大学へ進学するため兄が帰国した。このため、現在は母との二人暮らしだ。母もバンクーバーの住み良い環境を謳歌しており、最近ヨガ教室にも通い始めた。由紀さんも、この夏は地域のコミュニティセンター(公民館)で行われている、小さな子供向けのアートスクールでボランティアをするなど、親子共々地元に根ざした生活をしている。 大学進学は帰国子女枠で 友人たちとの別れや、小学校の卒業式に出席できなかったこと、制服や部活、修学旅行が経験できなかったなど、日本を離れたことで悔やまれることもあるが、長い留学生活で得た英語力は何ものにも代えがたい由紀さんの宝となった。また、幼い頃から習っているバイオリンを通し、今まで言葉で通じ合えなかった人と、心で通じ合えたことも自信に繋がっている。そして、そのバイオリンを習わせてくれた母に感謝しているという由紀さん。現在はカナダ人の先生に師事し、楽しくレッスンを受けている。 |